エピローグ 使い魔のスナネズミ
本日、二話同時更新です。
新学期の朝、ナディアは肩に使い魔を乗せて学院の廊下を歩いていた。
小さくてふわふわのスナネズミだ。
名を呼びながらそっと撫でると、喜んでいるのが伝わってくる。
角を曲がったところでナディアは足を止めた。
廊下の先に人だかりができていた。何事かと不思議に思いつつも「新しい一年の始まりに浮き足立っているんだろうな」とあまり気にせず横を通り過ぎ、教室に向かった。
新学期最初の授業は「防御魔術演習・上級」だ。この術の大切さが身に染みているので、休みの間かなり気合を入れて予習に取り組んだ。
ナディアはワクワクしながら教授の到着を待つ。
ほどなく現れた初老の教授が簡単な自己紹介を済ませ「さて」と言う。
「演習の授業を手伝ってくれる助手を紹介しよう。昨年この授業でトップの成績をおさめた人物だ」
教授の言葉に続いて扉が開いた。
現れた人を見て、教室のあちこちから悲鳴にも似た声が上がった。
ナディアは呆然とした。
そんなナディアを見てか、琥珀色の瞳が可笑しそうに細められた。
――殿下……?
長期休暇の間、頻繁に会っていた。王と王妃も一緒に食事をしたり、ナディアの母と叔母に――今度はちゃんと王子だと明かして――紹介したり、サフリオに乗ってオアシスへ出かけたりもした。昨日も会っていた。なのに一言も聞かされていなかった。
ナディアが固まっている間も教室は騒然としている。「知ってた?」「知らなかった」「殿下が助手に!?」「ていうか眉間のシワ消えた?」「眼福」なんて声が聞こえてくる。
タリクは涼しい顔で教壇に立ち、視線だけをナディアに向けてくる。「驚いたか?」とでも問いたげだ。
――絶対にわざとだ。わざと内緒にしてたんだ。
演習が始まり、ナディアは隣の学生に自分から「よかったら」と声をかけてペアを組んだ。昨年のグループ課題で一緒だったせいか、どことなくナディアに対して怯えているような気もするが、気にしないことにした。
教室のあちこちを見回って姿勢や術式に助言するタリクを尻目に、ナディアはペアの学生のマントを吹き飛ばす。
「ナディア」
ペアの学生がマントを拾いに行っている隙に、低い声が呼びかけてくる。
「なんでしょうか」
「その肩のものは何だ?」
「私の使い魔です」
「聞いてないぞ」
「私も殿下が助手になられるというのは初耳です」
タリクがククと笑いながら耳元で囁く。
「驚いた?」
「そうですね。驚きました。ところで――」
ナディアも負けじとタリクの耳元で囁いた。
「――このスナネズミの名前、お知りになりたいですか?」
タリクが訝しむような顔で「そんなに変な名なのか?」と問うてくる。
「『ムッツリ殿下』です」
「やめてくれ!!」
彼が珍しく大きな声を出したところを見ると、どうやら意趣返しになったらしい。ナディアは大満足で微笑んだ。
「だって、いつまで経っても意味を教えてくださらないから」
「教える……!! 教えるから……!!」
ナディアは笑いながら肩の上のスナネズミをそっと撫でた。彼の本当の名は「騎士」を意味する「ファーリス」だ。ナディアの父の名でもある。
――立派な魔術師になるから見守っててね、ファーリス。
再びペアの学生のマントを吹き飛ばす。タリクはナディアの印を直すフリをして指先に触れた。
「授業が終わったら準備室に来るように」
低い声で言われ「どうしてですか?」と問う。タリクはさらに声を低くした。
「そんなに『ムッツリ』の意味を知りたいなら教えてやる。その代わり、私が何をしても絶対に逃げるなよ?」
背中がぞくりとした。
スナネズミのファーリスが、タリクを威嚇するようにヂヂヂヂヂヂと鳴いた。
FIN
最後までお読みいただきありがとうございました。
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好きなシーンとか教えていただけたら飛び跳ねて喜びます…!
必ず書くとお約束はできないのですが、番外編のリクエストも大歓迎です。
このお話を面白いと思ってくださる方々に届くことを願って…
ありがとうございました。
奏多悠香




