第2.1話::三位一体のトリニティ
魔法の領域(Magic Realm)
エルダーグロウの町の近くにある浅い遺跡は、まるで夕暮れに裂かれた傷のようだった。
黄金色の光が崩れた柱や苔むした石像に差し込み、静かな風が古の記憶を撫でていく。
その影の中、三つの人影が倒れた壁の裏に身を潜めていた。息をひそめ、まるで悪戯に成功した子どものように笑っている。
「なぁ、本当に安全なのか?」
シュウが小声で囁いた。視線は遺跡の入口に立つ警備兵へと向かう。
「やめなさい。」
ジェンの声は低く、鋭い命令の響きを持っていた。髪を耳にかけ、落ち着きなく周囲を見渡す。
「安全じゃなくても、ここまで来たのよ。今さら引き返す気?」
リースは手袋をした手で小さな装置を弄び、口の端を上げた。
「安心しろよ。俺がいる限り、計画は完璧だ。」
彼は装置を軽く叩く。虫の羽音のような小さな振動音が響いた。
「入口は北側だ。ついてこい。」
三人は崩れた石の上を慎重に進んだ。古代の大理石に靴底が静かに擦れる。
入口は二本の柱の間にあり、淡い光を放つ膜のような結界がそのアーチを覆っていた。
二人の警備兵が立ち、魔法の杖を構え、目を光らせている。
「強そうだな……」
シュウが唾を飲み込む。
「奴らが強くても、俺たちは頭がいい。」
リースは自信に満ちた声で言い、装置を起動させた。
小さな金属の機械が彼の掌から転がり出る。地面を滑るように走り、青い光を瞬かせながらチリチリと音を立てた。
警備兵の一人が反応し、装置の動きを追って足を踏み出す。
「今よ、シュウ。」
ジェンが鋭く囁く。
シュウは石陰に身をかがめ、震える指先で呪文を紡いだ。
小さな旋律のような声が空気を揺らす。
次の瞬間、三人の影が分裂し、光を折り曲げた幻影が現れる。
ぼやけた輪郭を持つ三つの幻影が、まるで彼ら自身の分身のように動いた。
警備兵は警戒して杖を振り上げ、拘束の呪文を詠唱した。
光る蔦のような魔法の紋が地面から噴き上がり、幻影に絡みつく――が、何も捕らえられず虚空に消えた。
兵士は驚きに目を見開いた。
その隙を突き、ジェンが素早く前へ跳び出した。
袖口から奇妙な形の鍵を取り出す。鍵の頭部は微かに脈打ち、封じられた魔力が光っていた。
彼女はそれをアーチの根元にある彫り込みへと差し込む。
一瞬、空気が止まった。
そして結界が震え、まるで溶けるように消え去った。
「行くわよ!」
ジェンが低く叫ぶ。
三人は一斉に駆け出し、暗闇の中へと滑り込んだ。
古代の石壁が彼らの足音を吸い込み、背後で入口の結界が再び形成される。
外に残った警備兵は、何もない空間を見つめながら舌打ちした。
「気のせいか……?」と呟き、夜空へと視線を戻した。
その頃、遺跡の内部では――
三人の笑い声が小さく響いた。安堵と緊張、そして興奮が混じり合う笑いだった。
彼らは闇の奥へと進み、手に入れたばかりの「宝」を抱えながら、未知の迷宮へと姿を消していった。




