第1.5話:演説と再会
六人の“ありえない”者たちが古代の遺跡へと引き込まれた時、彼らは世界を生んだ力――ネクサスの砕けた欠片と秘められた絆を知る。
運命に縛られた彼らは、失われた欠片を求めて諸界を旅し、迫り来る影の秩序と「創造」と「破壊」の狭間に挑むこととなる。
「学生の皆さん、ステージ前に集まってください!」
教師の声が広場に響き渡った。「開会の挨拶を始めます!」
ざわめいていた会話が一斉に収まり、人の流れが変わる。
テントは静まり、機械は独りで蒸気を吐き出し、学生たちは小さな木製のステージへと集まっていった。
カルミーンは舌打ちしながらセレネを小突いた。
「ほら、ホラー娘。変な話は後にしなさい。」
セウルは片手に食べかけの菓子を持ちながら、だるそうに手を振った。
「俺たちも行くか。」
ゼディは指に付いた砂糖を舐めながら言った。
「おう、行こうぜ。まあ、このスピーチが退屈じゃなきゃいいけどな。」
背の高い男が丸眼鏡を押し上げ、礼儀正しく一礼した。
「学生諸君、この壮大な遺跡の管理を任されているダリウス博士です。今日ここに集まってくれた皆さん、そして大学に感謝します。この遺跡はただの石や蔦ではありません――遥か昔に滅んだ文明の名残りであり、その真の目的はいまだ謎に包まれています……」
セレネの手が勢いよく上がった。
「南の壁は第二の大地震で崩れたんだよ。三百二十年前にね!探索者は十六人行方不明で、見つかったのは七人の遺体だけ。そのうち一人は――首なし。」
学生たちの間に不安のざわめきが走る。
ダリウスは瞬きをした。「……はい、その通りです。ありがとう、ですが――」
「それと地下の部屋。近づくと叫び声が聞こえるやつ。」セレネはにやりと笑い、首をかしげる。
群衆が一歩後ろに下がった。
ダリウスは咳払いし、気まずそうに微笑んだ。「実に……熱心ですね。しかし、できれば私の言葉で説明させていただきたい。」
カルミーンは顔を手で覆い、うめいた。「なんで私、こいつの隣にいるんだろ……」
そしてセレネの口を片手で塞ぐと、笑い声を muffled に muffling した。
ダリウスは話を続ける。
「ご存じの通り、遺跡の探索は明日の朝から始まります。夜間の立ち入りは禁止です。危険を避け、遺跡への敬意を示すためにも。」
セレネはカルミーンの手をすり抜け、ひそひそ声で歌うように言った。
「でも夜の方が石はよく囁くんだよ……」
新入生が震え、カルミーンは諦めたようにぼそっと言った。
「もう、広場の反対側に立っときゃよかった……」
ダリウスはできる限り無視して、資料を整えた。
「さらに、学生は決して単独で探索してはいけません。常にグループで行動してください。」
彼は声を和らげ、笑顔を見せた。
「さて、今夜は広場で焚き火を行います。それに――珍しい光景が見られるでしょう。惑星がすべて一直線に並ぶのです。記憶に残る壮観ですよ。」
感嘆の声があちこちから漏れた。
「そして最後に――」ダリウスは暖かく付け加えた。
「本日の食事を提供してくれたルメイラさんとそのチームに感謝します。」
赤いテントのそばで皿を並べていたルメイラがふと顔を上げた。空を見上げ、優しく呟く。
「全部が……並ぶのね。」
太陽が沈み始め、遺跡は黄金と深紅に染められ、影が長く伸びていった。
学生たちは思い思いに過ごす。焚き火の準備をする者、芝生で寝転ぶ者、テントに入って休む者。
***
ソレスは布で額の汗を拭き、修理していた機械から一歩下がった。
歯車は安定し、静かに唸りを上げている。彼は背伸びし、大きく息を吐いた。
「ふぅー。今日も俺の天才が炸裂したな。ほんと給料が出てもいいレベルだ。」
腹の虫が鳴く。「しかも福利厚生も欲しいな……たとえば、山盛りの飯と……美女の相手とか。」
彼は手を払って広場を歩き出した。視線を泳がせ、獲物を狙う猟師のように。
その目が止まったのは、金色の文字が刺繍された深紅のテント――Seera Sweets。
「おお、食い物と女の子、一度に両方。運命ってやつだな。」
中に入ると、甘い香りが暖かな抱擁のように迎えた。
ケーキ、ペイストリー、煌めくジュースの瓶がカウンターに並ぶ。
ソレスは慣れた笑みでカウンターに身を預けた。
「そのケーキを一切れ――いや、大きめで。あとジュースを一杯。それと、もし時間があれば……笑顔も一緒に頼めるかな?」
店員は赤面しながらクスクス笑い、急いでトレイを用意した。
ソレスはウィンクしながらコインを滑らせる。
「完璧なサービス。毎時間来たくなるな。」
彼はフォークを手に取り振り返った瞬間、目に入った。
粉を少し浴びたエプロン姿の女性――控えめなのに、その場の甘い菓子以上に存在感を放っていた。
ソレスの動きが止まる。フォークが空中で固まる。
記憶が引っ張られる。高校時代、心に焼き付いて離れなかった顔。卒業後も写真を手放せなかった存在。
「……まさか。」彼は小さく呟いた。笑みが揺らぎ、消えそうになる。
「ルメイラ……?」
彼女は別の学生に菓子を渡し、柔らかな笑みを浮かべていた。まだ彼には気づいていない。
ソレスはかすかに笑い、いつもの調子を装った。
「……運命が舞台を用意してくれたってわけか。」
トレイを受け取りながらも、視線は彼女へと吸い寄せられる。
それは彼が覚えている笑顔と同じだった。けれど、以前より鋭く、優しさを帯びていた。
喉が渇く。いつもの口説き文句は影も形もない。
「ありがと……ケーキ、完璧だな。」声が震え、早口で言い残し、トレイを掴んでテントを飛び出した。
ルメイラは首を傾げ、彼の背を見送った。
「……何だったのかしら。」
外に出たソレスは廃墟の柱にもたれかかり、大きく息を吸った。皿を落としそうになりながら。
「落ち着け。呼吸しろ。大丈夫だ。ただの、ただの失態だ……」
彼の笑みは乾き、焦燥に揺れる。
「俺が……逃げただと?女から逃げたことなんてないのに。でも――彼女は……ルメイラだ。」
ケーキを見下ろす。フォークが微かに震える。
「俺を覚えてもいなかった。それでいいのか?悪いのか?……くそ、しっかりしろよソレス。心臓を揺さぶるのは俺の方だろうが。」
柱に背を預け、空を見上げながら呟く。
「運命は残酷だ……でも……美しい。」




