第1.4話:ルメイラとソラス
六人の“ありえない”者たちが古代の遺跡へと引き込まれた時、彼らは世界を生んだ力――ネクサスの砕けた欠片と秘められた絆を知る。
運命に縛られた彼らは、失われた欠片を求めて諸界を旅し、迫り来る影の秩序と「創造」と「破壊」の狭間に挑むこととなる。
セウルは広場の向こうを無造作に指さした。
「ほら、あそこ。『セーラ・スイーツ』って書いてあるテント。」
ゼディはその指先を追い、深紅のテントを見つけた。金色の文字が刺繍され、甘い香りが漂ってくる。思わず grin が広がる。
「うまそうだな。」
「すごく美味しいぞ。」セウルはナプキンで手を拭きながら付け加えた。
「もっと買いに行くか?」
「聞くまでもない!」ゼディは笑い、すでにセウルを引っ張っていた。
二人は人混みをかき分け、テントの中へ入った。そこは焼きたてのパンや砂糖の甘い香りで満ち、黄金色に輝く菓子が山のように並んでいる。
ゼディは迷いなくカウンターへ進み出た。
「菓子を二つ――いや、三つ!……やっぱり四つだ。一番でかいやつを頼む!」
柔らかな笑い声が返ってきた。カウンターの奥には、きちんとしたエプロンを着けた若い女性。髪を後ろで束ね、頬には粉が薄く付いていた。
彼女の瞳は温かく、穏やかで、包み込むような気配を纏っている。その視線だけで安心させるほどだった。
「ずいぶんな食欲ね。」彼女は優しく言いながらトレーを差し出した。「全部食べきれるの?」
「挑戦ってやつだな。」ゼディは満面の笑みを浮かべる。「俺の名はゼディ。食べ物完食のチャンピオンだ。」
彼が手を伸ばした瞬間、視線があるものに止まった。彼女の右耳の下――小さな刺青のような印が、光を受けてほのかに輝いていたのだ。
「おお、かっこいいな。それ…似合ってるぞ。」
女性は無意識にそこへ手を当て、小さく微笑んだ。
ゼディは一口大きくかじった。目が見開かれる。
「うめぇ!これは……魔法みたいだ!味がただ美味いだけじゃなくて、本当に魔法がかかってるみたいだ!」
ルメイラはぱちりと瞬きをしてから、柔らかく笑った。その声は空気に溶けるように優しかった。
「魔法だなんて、最高の褒め言葉ね。でも約束するわ。呪文なんかじゃなくて、小麦粉とバターと…ほんの少しの愛情よ。」
ゼディはすでに二つ目を半分食べていた。
「何であれ、この味はやめないでくれよ。軍隊とだって戦える!」
「戦う必要はないわ。」ルメイラは小さな菓子をもう一つ差し出し、微笑んだ。
***
その頃、機械の方では――。
ガシャン、とレンチの音が響く。ソラスは真鍮の機械に身をかがめ、袖をまくり上げて得意げに笑っていた。
「ここを締めれば大丈夫。」最後にボルトをひねりながら滑らかに言う。「もし火花が散っても慌てるなよ。最悪、責任は俺が取る。君を困らせたくないからな――俺の心を乱すのは君だけで十分だ。」
そばにいた少女は顔を真っ赤にして、ノートで半分隠すように笑った。ソラスはウィンクし、レンチをまるで剣を納めるように腰へ差し込む。
だが、その瞬間――背筋を冷たいものが走った。風のせいではない。もっと重く、必然のような感覚。
「また任務中に女の子を口説いてるの、ソル?」
その声。甘すぎるほど甘く、歌うように響く声。
セレネ。
ソラスは振り向きもせず、ただこめかみを押さえてうめいた。
「ほらな、気分が台無しだ。」
やはりそこにセレネが立っていた。にやりと笑い、背中に手を組み、まるで不気味なおもちゃを持ち込んだ子供のような仕草で。後ろにはカルミーンが腕を組んでついてきていた。
「私が近くにいると、すぐ分かるでしょ?」セレネは首を不自然に傾けて囁く。「だって私たちの魂は、この錆びた機械より強く縫い合わされてるんだから。」
少女は獲物のように固まり、ソラスは深いため息をついた。
「いや、単にお前が持ってるホラー映画みたいな不気味オーラのせいだろ。歩くドッキリみたいなもんだ。」
セレネの笑みが鋭くなる。
「嵐の雲は雨を呼ぶ。そして雨は、薄っぺらな誘惑なんて洗い流してしまうの。」視線を少女にちらり。彼女はすぐに逃げ出し、ノートを抱えたまま消えていった。
「おいおい、あと一歩だったのに!」ソラスは頭を抱える。「あとこれくらい!これくらいで落とせたんだぞ!」指でわずかな隙間を示す。
「でも、その瞬間の赤っ恥は最高の音よ。」セレネは手を叩き、無邪気に笑う。「私の大好きな“チンチンチン”ってね。」
カルミーンは顔を覆い、うんざりとつぶやいた。
「最低ね。世界一の不気味な妹と、世界一の軽薄な兄。地獄でお似合いよ。」
「俺は魅力的だろ。」ソラスはニヤリとする。
「私は取り憑くの。」セレネは目を大きく見開き、誇らしげに答える。
二人はおどけてポーズを決め、まるで奇妙なお笑いコンビ。
カルミーンはさらに大きくため息をついた。
「ほんと、馬鹿の二人組。」
セレネは機械をちらりと見てから、兄へ向き直る。
「で? ここで何してんの、ソル?」
ソラスは胸を張り、誇らしげに言い放った。
「俺は呼ばれたんだよ。この美しい機械たちが止まらないようにするためにな。火花でも、詰まりでも、不具合でも――誰が呼ばれる? 俺だ。だって俺が一番だからな。」
セレネはまた首を不自然に傾け、歌うように言う。
「はぁ〜、誇らしげね。レンチを持ったクジャクみたい。」
「クジャクの方がマシだな。不気味な笑顔のカカシよりはな。」ソラスは口角を上げて反撃した。




