エピソード1.3:カルミーンとセレネ
六人の“ありえない”者たちが古代の遺跡へと引き込まれた時、彼らは世界を生んだ力――ネクサスの砕けた欠片と秘められた絆を知る。
運命に縛られた彼らは、失われた欠片を求めて諸界を旅し、迫り来る影の秩序と「創造」と「破壊」の狭間に挑むこととなる。
彼らの運命の場所――遺跡に到着した。
苔と絡まる蔦に半ば埋もれた古代の石造りの門。その巨大なアーチが影を落とし、長い時を経て傷ついた柱が並んでいる。湿った土と野花の匂いを含んだ風が吹き抜け、忘れ去られた物語を囁いていた。
だが、その荒涼とした美しさとは裏腹に、遺跡周辺は活気に満ちていた。色鮮やかな旗が大学の研修旅行の集合地を示し、学生たちが賑やかに集まっている。中央の広場には大きなテントが張られ、深紅の布には金色の文字で「セーラ・スイーツ」と刺繍されていた。焼きたてのパンや甘い菓子の香りが漂い、学生たちの空腹を刺激し、長い列ができていた。
少し離れた場所では、奇妙な機械を修理する作業員たちが苦戦していた。歯車が軋み、蒸気を吐き出す音に惹かれて、何人かの学生が足を止めて見物している。他の学生たちは芝生に寝転んだり、カメラを手に遺跡へ近づいたりしていた。
「はぁぁ〜!」
カシャッ、カシャッ。
セレネは小さなカメラを構え、目を輝かせてシャッターを切った。
「夢みたい!わぁ〜!早く遺跡の中に入りたいよ!行っちゃおうかな〜!」
飛び出そうとした瞬間、首根っこをガシッと掴まれた。
「落ち着け。今すぐ一人で入れるわけないでしょ。」
カルミーンがきっぱりとした声で彼女を引き戻す。
「えぇ〜、カルミーン…」セレネは口を尖らせ、カメラを離さない。
ちょうどその時、近くで小さな騒ぎが起きた。三人の上級生が、一人の一年生を取り囲んで嘲笑していたのだ。小柄な少年はリュックを胸に抱きしめ、眼鏡をずらしながら押されてよろめいている。
「これが課題かよ?幼児でももっとマシに作るぞ!」一人がノートをひったくる。
「や、やめて!返して!」少年が必死に手を伸ばす。
カルミーンの目が鋭く光った。彼女はセレネを放し、怒気を帯びた声で突き進む。
「ちょっと!何してんのよ!」
三人は振り返り、一番大きな男がニヤリと笑う。
「落ち着けよ、ちょっと遊んでただけだ。」
「遊び?」カルミーンの目が燃える。「一年生いじめるのが遊び?強い気になってんの?相手ならここにいるわよ!」
彼女はリーダー格の手首を鉄のような握力で捻り上げ、男は悲鳴をあげた。
「離せ!この狂女が――」
「狂女?」カルミーンが睨みつける。「まだまだ甘いわよ。」
その背後に忍び寄ったのはセレネだった。カメラを首から下げ、不気味な笑顔を浮かべる。彼女は二人目の男の耳元に顔を近づけ、囁くように楽しげに言った。
「ふふ…知ってる?この遺跡、呪われてるんだって。人をいじめた奴はね…闇に引きずり込まれて消えちゃうんだって。影だけ置いてね。」
男の顔が青ざめる。「な、何だよそれ…」
セレネは首をかしげ、にっこり笑った。
「今夜、試してみる?」
二人は怯えて後ずさり、リーダーの背後に隠れた。
「はいはい、カルミーン、その辺にしとこうよ。」セレネが宥めるように彼女の手を外す。
三人は慌てて逃げ出し、涙目の一年生がノートを抱きしめて震えながらお礼を言った。
「ありがとうございます…」
カルミーンは腕を組み、吐き捨てるように言った。
「弱虫ども。」
セレネは少年の目線までしゃがみ込み、優しく微笑んだ。
「大丈夫。私たちと一緒にいれば、もう誰もいじめないよ。」
そして悪戯っぽくカメラを構え、カシャッ。
「ほら、呪いに勝った記念写真!」
少年は情けない声をあげて逃げていった。
***
その後すぐ、カルミーンが不意に肩をぶつけられた。
「ちょっと!」振り返ると、汗まみれで水筒を持ったゼディが立っていた。
「おっと、ごめんごめん。下にいるの気づかなかった。」
「下にいる?」カルミーンの眉がピクッと動く。「私、あんたと同じ背だっての!」
「えー?俺から見ると、二センチくらい低く見えるけどなぁ。」わざと手を頭上にかざし、にやりと笑う。
「はぁ!?地面に叩き伏せられたいの!?」
ゼディは楽しそうに肩をすくめる。
「相変わらず短気だなぁ。そんなに噴火してばっかりだと火山みたいだぞ。ちょっとは旅行楽しんだらどうだ?」
「ふざけてんの?」カルミーンの拳が震える。「私は人を守ってるの!あんたみたいにおちゃらけてばっかじゃない!」
ゼディは顔を近づけ、悪戯っぽく囁いた。
「でもさ、怒って頬が膨らんでるときの君って…ちょっと……可愛いんだよな。」
沈黙。
「……可愛い?」
次の瞬間、ドゴッ!カルミーンの拳がゼディの頭に炸裂した。
「いってぇ!」頭を押さえてうずくまるゼディ。その場をカルミーンはプンプン怒りながら去っていく。
「可愛いじゃないっ!」
ちょうどそのとき、皿に軽食を持ったセウルが戻ってきた。
「何してんの?罠にでも落ちた?」
「俺、殴られたんだよ!」ゼディが涙目で叫ぶ。
セウルは平然とクラッカーをかじる。
「へぇ、ついに火山が噴火したか。自業自得だろ。今月で三発目?」
「二回目だって!…たぶん。」
「ふぅん。」セウルは眉を上げるだけ。
「お前、友達なんだから味方しろよ!」ゼディが抗議する。
セウルは苦笑しながら首を振った。
クラッカーをもう一口食べてから、セウルは差し出した。
「食う?」
「お、もらう!」ゼディが即座に奪って口に入れると、目を輝かせた。
「うまっ!どこで手に入れたんだよ、これ!」
セウルは広場の一角を指さす。
「向こう。『セーラ・スイーツ』って書いてあるテント。」




