第3.4話: 探す価値あり
その間、遺跡の別の場所で
揺れはまだ止まらなかった。
天井から細かな砂埃が、壊れた砂時計のように静かに降り注いでくる。
石壁には奇妙な光の波紋が走り、低い唸りとともに空気そのものが生きているかのように震えていた。
シュウはふらつきながら、肩に掛けたバッグを必死に押さえた。
「な、なんだよこの揺れ! 遺跡ごと崩れそうじゃないか!」
リースは床に片膝をつき、機器をいじりながら顔も上げずにぼそりと返す。
「さあな、シュウ。もしかして――“古代の呪われた遺跡”が、俺たちが聖域を荒らすのを気に入らないんじゃないか?」
その声には皮肉がたっぷりと滲んでいた。
「笑いごとじゃないってば!」シュウが叫ぶ。
ジェンは壁に手をついて体を安定させ、前方を鋭く見据えた。
その瞳には、止まる気配のない決意の炎が宿っていた。
「何が起きていようと関係ない。ここまで来て止まるわけにはいかない。――リース、地図ではあとどれくらい?」
リースは手首の装置を軽く叩き、青白い光が彼の眼鏡に反射した。
「もうすぐだ。マップは俺のスカウトカメラと同期してある。」
得意げに口角を上げる。
「技術はいつだって迷信に勝つんだよ。」
彼が手首の装置を傾けると、空中に淡い青のホログラムが浮かび上がった。
そこにはカメラからの映像が映し出される――曲がりくねった通路、崩れた像、ほのかに光る古代文字。
青白い幽光の中、遺跡の奥を進むように映像は揺れていた。
リースが指で示しながら説明する。
「ここを見ろ、下層のチャンバーだ。座標はネクサス・コアの反応と一致してる。もし俺の計算が正しければ――」
ジェンがすぐに遮る。
「“もし”じゃなくて、“希望的観測”でしょ。」
「――俺たちは、もうすぐ目的地に着く。」
リースはにやりと笑った。
だがその瞬間、ホログラムがチラつき始めた。
カメラが角を曲がった瞬間――映像の中でまばゆい閃光が走る。
真っ白な光が画面を覆い、そのあとノイズと静電音だけが残った。
ジェンが身を乗り出す。
「ちょっと! 今の何? 見てたのに!」
リースは眉をひそめ、素早く操作を続けた。
「わからない……。信号に干渉が入った。エネルギー反応か、それとも……“何か”がいる。」
声のトーンがわずかに落ち、焦りと警戒が混ざる。
シュウの顔が青ざめた。
「“な、何か”って……やめてよ、それ……。」
ジェンは腕を組み、冷静に言い放った。
「カメラのことはいいわ。場所は特定できる?」
リースは装置を確認し、軽く頷いた。
「できる。最後の座標は――あの奥の通路だ。」
彼が指差す先、細いトンネルの奥で淡い光が脈動している。
ジェンは拳を鳴らし、挑むように微笑んだ。
「よし、行くわよ。あの中にあるもの――それが私たちの目的。」
シュウは肩を落とし、半泣きの声でつぶやいた。
「ジェン、その言い方……絶対フラグ立ててるよ……。」
リースは荷物を直しながら、片目を細めて笑った。
「心配すんな、シュウ。俺のカメラを壊した何かなら、きっと“見る価値がある”ってことさ。」
三人はそのまま、淡く光る通路の奥へと歩き出した。
彼らの影が長く伸び、石壁に揺れながら消えていく。
地の底で響く震動が、まるで鼓動のように後を追っていた――。




