第1話 始まり
六人の“ありえない”者たちが古代の遺跡へと引き込まれた時、彼らは世界を生んだ力――ネクサスの砕けた欠片と秘められた絆を知る。
運命に縛られた彼らは、失われた欠片を求めて諸界を旅し、迫り来る影の秩序と「創造」と「破壊」の狭間に挑むこととなる。
昔のこと。
音楽が絹のように空気を漂い、貴族たちの笑い声と談笑に溶け込んでいた。魔法の王国は星空の下で輝き、その中心に立つ王城はひときわ眩しく光を放っていた。
今夜は祝宴の夜――魔法王国の王女であり、次期女王となるアリアと、その愛するイヴァンの婚礼の儀式の日だった。
大広間は幻想的で、宙に浮かぶ灯籠の金色の光に包まれ、大理石の床は鏡のように輝いていた。中央では、アリアの妹で末姫のアミラが優雅に舞い、その舞姿は全ての客人を魅了していた。闇色の髪が揺れ、深紅のドレスは炎のように広がり、燭光の中で燃える花のようだった。
アリアはイヴァンの手を握り、幸福そうに微笑んだ。儀式はまさに始まろうとしていた。楽団の最後の調べが静かに消え、大広間は穏やかな静寂に包まれた――その瞬間。
アミラの舞が徐々に緩やかになり、その表情が読み取れないものへと変わっていく。
袖の内から、細身の刃が現れた。
誰も反応する間もなく、彼女はその刃を深々と自らの胸に突き立てた。
大広間は凍りついた。
歓声は悲鳴へと変わり、祝福の光は恐怖に打ち砕かれた。
紅の血が鏡のような床に広がり、煌めく反射を容赦なく染め上げていった。
現代――。
再び、血が床を赤く染めていた。
今度は光に満ちた大広間ではなく、忘れ去られた〈通常界〉の地下に眠る廃墟で。
セウルの目が大きく見開かれる。幻のような激痛が腹を貫き、彼は崩れ落ちた。息が奪われ、震える手で傷口を押さえる。
「セウル! セウル!」
闇にこだまする仲間たちの声。
遺跡が揺れ、世界が傾いていく。最後に映ったのは、己の下に広がる深紅の染み――そして視界は黒に呑まれた。
――一日前。
「セウル! 早く起きないと遅刻するわよ!」
柔らかくも馴染み深い声が、眠気に包まれた意識を突き破る。続いて、木の扉を叩くコツコツという音。
セウルは呻き声を漏らし、目をこすった。薄いカーテンの隙間から朝日が部屋に差し込み、彼のぼさぼさの髪を照らす。
「……今行くよ」
面倒くさそうに呟きながらも、再び布団を頭まで引き上げる。
「行きたくない……あー……」
布に顔を埋めたまま、不機嫌そうに唸る。しかし、やがて大きく息を吐き、観念したように身を起こすと、首筋をぼりぼりと掻いた。
窓へよろよろと歩き、少しだけ開ける。机に置かれた古びた双眼鏡を手に取り、向かいの家を覗き込む。
半開きのブラインドの隙間から見えるのは、ぐちゃぐちゃなベッド――毛布は投げ出され、枕も床に転がっている。だが、そこにいるはずの人物は、いつも通りもう出かけていた。
「今日も早いな……」
セウルは小さく呟き、双眼鏡を下ろす。
大きく伸びをして、関節がぱきぱきと鳴る。そのまま洗面所へ向かう姿は、まるで一日の重みを既に背負ったかのように肩が落ちていた。
「文法やスペルに間違いがあったらごめんなさい。日本語はあまり得意ではありませんが、一生懸命がんばります。皆さん、ありがとうございます。」




