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第4話「学会を震撼させる革新理論」

## 1.


リリアーナとの出会いから三日後、アルベルトは王立魔導学院の大講堂にいた。


「緊張していますか?」


隣に座るマルクスが心配そうに声をかけた。今日は月例学術発表会の日で、アルベルトは初参加ながら発表者の一人として招かれていた。


「少し緊張しますね。王国最高の研究者たちを前にするのは初めてですから」


大講堂には百名を超える魔導師が集まっていた。王立魔導学院の研究者はもちろん、他の研究機関からも著名な学者たちが参加している。その中には、隣国から招かれた客員研究者の姿も見えた。


「でも、これほど多くの専門家に研究成果を聞いてもらえる機会は貴重です」


アルベルトは手元の発表資料を確認した。今日発表するのは「古代魔力循環理論の現代的応用」——この二週間で完成させた研究の集大成だ。


「皆様、お待たせいたしました」


壇上にセラフィナが現れ、発表会の開始を告げた。


「本日は第百二十三回月例学術発表会にお集まりいただき、ありがとうございます。今月は特別に、最近学院に加わったアルベルト・クラウス研究員による発表からスタートいたします」


会場がざわめいた。星辰召喚術の成功で一躍有名になったアルベルトへの関心は高く、多くの研究者が期待の眼差しを向けている。


「クラウス殿、どうぞ」


セラフィナに促され、アルベルトは壇上に向かった。


## 2.


「皆様、本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。王立魔導学院研究員のアルベルト・クラウスと申します」


アルベルトは深々と一礼した。会場の視線が一斉に彼に注がれる。


「本日は『古代魔力循環理論の現代的応用』について発表させていただきます。この研究は、現代魔法の効率性向上を目的として、古代文献の解析から導き出した新理論です」


会場の空気が引き締まった。魔力循環理論は魔法学の基礎中の基礎だ。そこに新しい知見があるとすれば、魔法界全体に影響を与える可能性がある。


「まず、現代魔法の問題点から説明いたします」


アルベルトは魔法で空中に図表を投影した。複雑な魔力の流れを示す図式が、会場の上空に浮かび上がる。


「現代の魔法体系では、個人の魔力を最大限に引き出すことに重点が置かれています。しかし、この手法には根本的な問題があります。魔力の『逆流損失』です」


聴衆の中から小さなざわめきが起こった。逆流損失は確かに現代魔法の課題だが、解決不可能とされてきた問題だ。


「古代文献を解析した結果、古代の魔導師たちは全く異なるアプローチを取っていたことが判明しました。彼らは個人の魔力を最大化するのではなく、『調和と循環』を重視していたのです」


アルベルトは次の図表を投影した。それは現代の魔力循環とは根本的に異なる、美しい螺旋構造を示していた。


「古代理論では、魔力を一方向に流すのではなく、環状に循環させることで効率を格段に向上させています。理論上は、現代の三倍の効率が可能です」


会場がざわめいた。三倍の効率向上は、革命的な数値だった。


「しかも、この理論を複数の魔導師で共有することで、さらなる効率向上が期待できます。私はこれを『共鳴増幅効果』と名付けました」


セラフィナは前のめりになって聞き入っていた。他の研究者たちも、アルベルトの説明に集中している。


「では、実際の検証結果をご覧ください」


アルベルトは実験データを投影した。古代理論に基づく魔法と現代魔法の比較実験の結果だ。


「ご覧の通り、魔力効率は平均して二・八倍向上しています。さらに、魔法の持続時間も大幅に延長されました」


会場から驚嘆の声が上がった。理論だけでなく、実証データまで揃っているのだ。


## 3.


「素晴らしい研究です」


発表後の質疑応答で、最初に手を上げたのは老齢の魔導師だった。王国魔法理論学会の重鎮、エドワード・グレイソン教授である。


「しかし、古代文献の解釈について疑問があります。千年前の記録をどのように現代語に翻訳されたのですか?」


「古代語の原文のまま解釈いたしました。翻訳による誤解を避けるためです」


「古代語で? それは相当な語学力が必要ですが……」


「幼少期から古代語を学んでおりました。特に魔法関連の古代語については、かなり詳しく研究しています」


グレイソン教授は感心したように頷いた。


「なるほど。では、この『共鳴増幅効果』ですが、複数人での実証実験は行われましたか?」


「はい。先日、偶然の機会がありまして……」


アルベルトはリリアーナとの魔力共鳴について、学術的な観点から説明した。もちろん、相手が王女であることは伏せている。


「二人の魔導師の魔力が完全に同調し、理論通りの共鳴現象が確認できました。効果は単独時の約四倍でした」


会場がどよめいた。四倍の効率向上は、もはや魔法の概念を変える数値だった。


次に手を上げたのは、隣国からの客員研究者だった。


「ヴェルディア王国魔導師団のレオナルド・フィッシャーです。大変興味深い理論ですが、軍事応用についてはどうお考えですか?」


アルベルトの表情が少し曇った。


「私の研究は平和利用を前提としています。軍事利用については、慎重な検討が必要だと思います」


「しかし、この理論が悪用される可能性は?」


「それは確かに懸念事項です。だからこそ、学術界全体で知識を共有し、適切な使用法を確立する必要があります」


セラフィナが口を挟んだ。


「クラウス殿の理論は、魔法学全体の発展に寄与するものです。特定の目的に限定せず、広く研究されるべきでしょう」


会場から賛同の声が上がった。


質疑応答は一時間以上続いた。どの質問にも、アルベルトは理論的根拠を示して的確に答えていく。その知識の深さと論理的思考力に、聴衆は圧倒されていた。


## 4.


発表会終了後、アルベルトは多くの研究者に囲まれた。


「素晴らしい発表でした。ぜひ共同研究をお願いしたい」


「古代文献の解釈について、詳しくお聞かせください」


「我が研究所でも講演していただけませんか?」


次々と声をかけられ、アルベルトは対応に追われた。一夜にして、彼は学術界の注目の的となったのだ。


「人気者になりましたね」


マルクスが苦笑いしながら近づいてきた。


「正直、これほどの反響は予想していませんでした」


「当然の結果です。あれほど革新的な理論なら、誰もが興味を持ちます」


セラフィナも満足そうな表情で二人に近づいた。


「クラウス殿、見事な発表でした。学院の名誉です」


「ありがとうございます。でも、まだ研究は始まったばかりです。これから検証すべきことがたくさんあります」


「その通りです。そして……」


セラフィナは周囲を見回してから、声を小さくした。


「実は、今日の発表を聞いて気になることがあります。後ほど私の研究室で、詳しくお話ししませんか?」


「何か問題が?」


「問題というより……興味深い発見です。古代文献との関連で、お聞きしたいことがあります」


アルベルトは首をかしげた。セラフィナの表情には、何か重要な発見をしたような興奮が見えた。


「分かりました。マルクスも一緒に?」


「もちろんです。彼も重要なパートナーですから」


三人は人込みを避けて、セラフィナの研究室に向かった。


研究室に着くと、セラフィナは古い文献を取り出した。


「実は、今日のあなたの理論を聞いて思い出したことがあります。この文献をご覧ください」


それは、アルベルトが見たことのない古代の羊皮紙だった。


「これは……古代魔導王アルケウス王の研究記録の断片です。学院の最奥に秘蔵されていた資料で、解読が困難とされていたものです」


アルベルトは羊皮紙を手に取った。古代語で書かれた複雑な魔法理論が、ページを埋め尽くしている。


「これは……僕が発表した理論と似ていますね」


「似ているどころか、ほぼ同一です。あなたの理論は、アルケウス王の研究を現代的に再現したものかもしれません」


アルベルトは驚いた。自分が独自に導き出したと思っていた理論が、実は千年前に既に完成されていたのだ。


「しかし、この文献は解読不可能とされていたのでは?」


「その通りです。しかし、あなたの発表を聞いて、この部分の意味が理解できました」


セラフィナは興奮を抑えきれない様子だった。


「つまり、あなたの研究によって、失われた古代の知識が蘇ったのです。これは学術史上、類を見ない快挙です」


アルベルトは複雑な気持ちだった。自分の理論が古代王の研究と同じだったという事実は、誇らしくもあり、同時に不思議でもある。


「今後、この文献の解読も進めていきましょう。あなたの古代語知識なら、他の部分も解読可能かもしれません」


「はい。ぜひ挑戦してみたいと思います」


こうして、アルベルトの研究は新たな段階に入った。古代魔導王の失われた知識を現代に蘇らせる、壮大なプロジェクトの始まりだった。

---


**次回予告:第5話「禁断の双子魔法発現」**


古代文献の解読に取り組むアルベルトのもとに、リリアーナが王宮の研究室への招待を携えて現れる。二人は宮廷での魔法実験を行うことになるが、その際に発現したのは理論上不可能とされる「双子魔法」だった。一国を守護する結界級の威力に、目撃者全員が絶句する中、二人はまるで何度も一緒に魔法を使ったことがあるかのような自然さを感じていて——。


運命の絆が深まる第5話、お楽しみに!

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