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第3話「運命的な救出と魔力共鳴」

## 1.


王都での生活が始まって一週間が過ぎた。アルベルトとマルクスは、すっかり息の合ったコンビになっていた。


「今日は王都郊外の古代遺跡で魔法実験ですね」


マルクスが準備された馬車の荷物を確認しながら言った。セラフィナが提案した現地での実験は、アルベルトにとって願ってもない機会だった。


「ええ。星辰召喚術以外の古代魔法も、実際の遺跡で試してみたいと思っていたんです」


「どんな魔法を試すつもりですか?」


「古代防護魔法の『聖域展開術』を考えています。理論的には完成しているんですが、実践での検証がまだでした」


アルベルトは研究ノートを見直した。この一週間で、古代治癒術についても基礎理論の整理が進んでいる。ただし、実践はまだ先の話だと思っていた。


「それにしても、王都郊外にも古代遺跡があるなんて驚きです」


「この大陸には無数の古代遺跡が点在しているんです。大部分は既に調査済みですが、時々新しい発見もあります」


馬車は王都の北門を抜け、緑豊かな丘陵地帯に入った。約二時間の道のりで、目的地の遺跡に到着する予定だ。


「アルベルト、あそこに煙が見えませんか?」


マルクスが窓の外を指差した。確かに、街道の先に黒い煙が立ち上っている。


「事故でしょうか?」


「可能性があります。見に行ってみましょう」


御者に指示して馬車を急がせると、煙の正体が判明した。魔法実験中の事故らしく、魔法陣の周囲が焦げ、実験器具が散乱している。


「誰かいませんか!」


アルベルトが声をかけると、草陰から若い女性の呻き声が聞こえた。


## 2.


草むらに倒れていたのは、十八歳ほどの美しい少女だった。薄紫色の髪と整った顔立ちが印象的だが、魔法の逆流によるものか、全身に火傷のような痕が広がっている。


「ひどい怪我です……すぐに治療を」


マルクスが応急処置の道具を取り出そうとしたが、アルベルトは首を振った。


「通常の治療では間に合いません。魔力の逆流による内部損傷も起きています」


少女の脈は弱く、呼吸も浅い。このままでは命に関わる状態だった。


「最寄りの町まで運ぶ時間はありません……」


その時、アルベルトの頭に古代治癒術の理論が浮かんだ。この一週間研究していた『生命回帰術』——現代では完全に失伝した古代最高位の回復魔法だ。


「試してみる価値はある……」


「アルベルト?」


「古代治癒術を使います。理論的には可能なはずです」


アルベルトは少女の傍らに跪き、両手を彼女の胸の上に翳した。古代語の詠唱が頭の中で組み立てられていく。


「ヴィータ・エト・ルクス・レノヴァーレ……」


最初の詠唱と共に、アルベルトの手から暖かな光が発せられた。その光は少女の体を包み込み、火傷の痕が見る見るうちに薄くなっていく。


「サナティオ・アエテルナ・コンプレータ……」


二節目で、少女の顔に血色が戻り始めた。呼吸も深く、規則正しくなっている。


「グラティア・ヴィタエ・アルケウス!」


最後の詠唱と共に、治癒術が完成した。少女の体から火傷の痕が完全に消え、健康的な肌の色が戻っている。まさに奇跡的な回復だった。


「信じられない……完全に治っています」


マルクスが驚嘆の声を上げた。現代の治癒魔法では、これほどの重傷を完全に回復させることは不可能だ。


「古代治癒術の理論通りでした。ただ、予想以上の効果が出ましたね」


アルベルトも自分の成功に驚いた。理論的には可能だと分かっていたが、これほど劇的な効果があるとは...


少女がゆっくりと目を開けた。美しい紫色の瞳が、最初にアルベルトを捉える。


「あなたは……」


その瞬間、不思議なことが起こった。


## 3.


少女の目がアルベルトを見つめた瞬間、二人の間に淡い光が生まれた。


それは魔力の共鳴現象だった。アルベルトの青い魔力と少女の紫の魔力が、まるで引き合うように絡み合い、美しい螺旋を描いて空中に踊る。


「これは……」


アルベルトは困惑した。魔力共鳴は稀な現象だが、通常は長年の修行を積んだ魔導師同士でなければ起こらない。初対面の相手と、しかもこれほど強力な共鳴が起こることは理論上ありえない。


「不思議……なぜか懐かしい感じがします」


少女は起き上がりながら、アルベルトを見つめ続けていた。その表情には困惑と、そして何か深い感情が混じっている。


「懐かしい?」


アルベルト自身も、少女を見ていると奇妙な感覚を覚えていた。初めて会ったはずなのに、どこか安心できる存在のような気がする。


「あの……お名前をお聞かせください」


「リリアーナです。リリアーナ・フォン・エルドラド」


「エルドラド? まさか……」


マルクスが驚愕の表情を見せた。エルドラドは王家の姓だ。つまり、この少女は王族ということになる。


「第三王女殿下! なぜこのような場所に!」


「あ……正体がばれてしまいましたね」


リリアーナは苦笑いを浮かべた。


「実は、魔法実験中に術式を間違えてしまったんです。こっそり新しい理論を試していたら、大失敗で……」


「一人で危険な実験をするなんて……」


アルベルトは思わず心配の声を上げた。


「でも、おかげであなたとお会いできました」


リリアーナが魅惑的な微笑を浮かべる。


「あなたが使った治癒術……現代では完全に失伝した技術です。あなたがアルベルト・クラウス様ですよね?」


「はい。ですが、なぜご存知で?」


「星辰召喚術の成功は、王宮でも大きな話題になっています。父上も『一度お会いしたい』と仰っていました」


リリアーナは立ち上がって、軽く一礼した。


「改めて自己紹介いたします。第三王女リリアーナ・フォン・エルドラドです」


リリアーナは深々と頭を下げた。


「そして……命を救っていただき、本当にありがとうございました。あなたがいらっしゃらなければ、私は命を落としていたかもしれません」


「いえ、当然のことをしただけです」


アルベルトも慌てて礼を返した。しかし、正式な挨拶を交わした後も、二人の間の魔力共鳴は続いていた。


「それにしても、この現象は一体……」


リリアーナも共鳴を見つめながら首をかしげた。


「理論的には説明がつきません。魔力の波長が完全に一致しているとしか……」


「ふふ。まるで、以前から知り合いだったかのような感覚ですね」


しばらく魔力共鳴は続いていたが、やがてゆっくりと薄れていった。


## 4.


「それにしても、殿下が一人で魔法実験をされるとは……危険すぎます」


マルクスが心配そうに言った。


「分かっています。でも、新しい理論を思いついたときは、どうしても試したくなってしまうんです」


リリアーナは少し恥ずかしそうに微笑んだ。その表情を見て、アルベルトは彼女の研究への情熱を感じ取った。


「どのような理論を研究されていたのですか?」


「魔力循環の効率化です。現代の魔法は、どうしても魔力の無駄が多くて……古代の文献を参考に、新しいアプローチを考えていました」


アルベルトの目が輝いた。


「それは僕も研究している分野です! 古代の魔力循環理論は、確かに現代より優れています」


「本当ですか? ぜひお話を聞かせてください!」


リリアーナも興奮した様子で身を乗り出した。二人の研究者としての情熱が、瞬時に共鳴したのだ。


「でしたら、王都に戻ってからゆっくりと……」


「そうですね。今日は殿下をお送りするのが先決です」


マルクスが現実的な提案をした。確かに、王女を野外に放置しておくわけにはいかない。


「申し訳ありません。せっかくの実験を中断させてしまって……」


「いえ、むしろ幸運でした。殿下とお会いできたのですから」


アルベルトの言葉に、リリアーナは嬉しそうな表情を見せた。


「私も同じ気持ちです。不思議ですが、あなたとお話ししていると、とても安心できます」


その言葉に、アルベルトも同感だった。初対面のはずなのに、リリアーナとは自然に会話ができる。まるで古い友人のような親しみやすさを感じていた。


「殿下、お怪我の方は大丈夫ですか?」


「ええ、完全に治りました。あなたの治癒術は本当に素晴らしいです」


リリアーナは自分の腕を確認した。先ほどまであった火傷の痕は、跡形もなく消えている。


「実は、この術式についてもお聞きしたいことがあります。古代治癒術の理論的基盤は?」


「詳しい説明は王都で……今は移動を優先しましょう」


三人は馬車に乗り込み、王都への帰路についた。車内では、アルベルトとリリアーナが魔法理論について熱心に議論していた。


「古代と現代の魔法体系の違いについて、どう思われますか?」


「根本的に発想が違うと思います。現代は個人の魔力を最大化することに重点を置いていますが、古代は調和と循環を重視していたのではないでしょうか」


「まさにその通りです! 私もそう考えていました」


二人の会話を聞きながら、マルクスは興味深い光景を見ていた。研究者同士の議論は理解できないが、二人の相性の良さは誰の目にも明らかだった。


王都に着く頃には、アルベルトとリリアーナは完全に意気投合していた。


「ぜひ今度、王宮の研究室もご覧になってください。古代文献のコレクションもあります」


「ありがとうございます。楽しみにしています」


馬車が王宮の門の前に停まった時、アルベルトは別れの時間を惜しむ気持ちでいっぱいだった。


「それでは、また近いうちに……」


「ええ。今度は安全な場所でお会いしましょう」


リリアーナは微笑みながら馬車を降りた。その後ろ姿を見送りながら、アルベルトは不思議な感覚に包まれていた。あの魔力共鳴現象は一体何だったのか。


新たな謎が、アルベルトの研究心をくすぐっていた。


---


**次回予告:第4話「学会を震撼させる革新理論」**


王都に戻ったアルベルトは、王立魔導学院で行われる学術発表会への参加を要請される。古代魔法研究の成果を披露する絶好の機会だったが、発表した「魔力循環理論」は既存の常識を完全に覆すものだった。セラフィナをはじめとする権威ある研究者たちが衝撃を受ける中、一部の学者は古代文献との類似性に気づき始めて——。


学術界の注目を集める第4話、お楽しみに!

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