戦隊ピンクの戦後 9
バーニンジャーの基地はアラタ市の地下部にシェルターのように建設されており、住宅街の一軒家やマンションの一室、駅ビル内に隠蔽された特殊通路の出入口から入る事ができた。基地内の会議室で、総司令である竜巻優一郎が待っていた。
私は優一郎の横に立ち、目の前に並ぶ四人の面々の顔を見た。
赤いチェックシャツの内気そうな少年、灯火春彦。名前を知っているのは彼だけだ。
ほかの面々は――
ゆったりしたジャケットに、青いポケットチーフを挿した洒脱な青年。
ふわりとした長髪にグリーンのインナーカラーを入れた女子高生。
上下ともにブラックで統一されたファッションの掴みどころのない男性。
といった具合だ。
優一郎が咳払いをして、口火を切る。
「順番が逆になってしまったが、皆にも紹介しよう。彼女は姫木みさと。かつて第一、第二、そして第四の戦隊に所属し、地球を狙う敵と戦ったベテランだ」
「え、すご。三回も戦隊やったの」
グリーンのインナーカラーを入れた女子高生がぎょっとした顔を見せた。
「このたび彼女はバーニンジャーの五人目として選ばれた。では、みさと。自己紹介を頼む」
……面倒だが、仕方ない。
「初めまして。私は姫木みさと。たった今、優一郎が言った通り、昔は戦隊をやっていたけど、今は興味がない。成り行きで変身しちゃって悪かったけど、チェンジャーとメダルは返還するから」
思案気にこちらを見つめる青いポケットチーフの青年が目を細め、黒ずくめの男がおもむろに顎に手をやる。同時に、灯火春彦と女子高生が妙な声を上げた。
「「優一郎~??」」
「…………え、何」
女子高生がにまっと笑う。
「いや~……二人揃って下の名前で呼び合うって、ねえ?」
「……何か、大人って感じです」
灯火春彦が変にもじもじした反応をする。いや、何だ大人って。
「こいつは誰でも下の名前で呼ぶんだよ。距離感が近いんだ。昔から」
私がそう言うと、優一郎がむっとした顔で言った。
「命を預け合う仲間なんだ。家族も同然だろ」
「だからって最初からはこっちも引くでしょ」
「――そんな事より」
腑抜けた雰囲気になりかけたところを、ポケットチーフの青年が硬質な声を出した。
「こっちの自己紹介がまだでしたね。俺は泉秋次。バーニンジャーのバーニンブルーをやっています。灯火君はもう知っているようですね。こっちの髪が緑のは風祭侑夏。こちらは夜見冬二さん」
「髪が緑っていうな! オシャレだよ! みさとさん、わたし、侑夏です! バーニングリーンだよ。よろしく!」
女子高生が溌剌とした声で言い、右手を差し出した。
「あ、ああ。よろしくね」
思わず握り返してしまう。
「夜見です。戦隊経験豊富な方に出会えて光栄です。よろしく」
黒ずくめの男が深い声で言った。
「どうも……」
何だろう。久しぶりに人間とまともな会話するからだろうか。妙に調子が狂う。
あらためて、泉という青年が私を見た。
「……それで、姫木さん。第四戦隊に所属していたって聞きましたけど――」
「ねえねえ。第四戦隊って……何だっけ。第一とかもよくわかんないだけど」
泉という青年が露骨に不快そうな顔で、侑夏を見た。
「……話の腰を折るなよ。さっきすごいとか言ってただろ」
「いや、そりゃ三回戦隊やったって言われたらすごいなって思うけどさ。第一だの第二だのはよくわかんないじゃん。話進める前にそこを説明してよ」
泉青年はむうっとしていたが、優一郎は頷いた。
「そうだな。あらためて解説しよう」
「俺がやります」
そう言って、泉は部屋の隅からホワイトボードを持ってくると、さらさらと綺麗な字で説明する事項を書いていった。
「まず、今から十年前に結成された第一戦隊。この地球で初めて戦隊と呼ばれた人たちだ。これが、銀河戦隊メグルンジャー」
・第一戦隊――銀河戦隊メグルンジャー(二〇三〇年結成)
メグルンジャーの名前を見た灯火君の目に、きらりと光るものが宿る。
「次に第二戦隊。九年前に結成された伝説戦隊レジェンドファイブ。これは竜巻総司令がリーダーを務めていた戦隊だ」
「あー、それは覚えてるな~」
・第二戦隊――伝説戦隊レジェンドファイブ(二〇三一年結成)
「その三年後。二〇三四年には、第三の戦隊が結成される。超常戦隊エスパリオン。これには姫木さんも総司令も関わっていない」
・第三戦隊――超常戦隊エスパリオン(二〇三四年結成)
「まーお休みはいるよね~」
侑夏がのんびりした声で言ったが、私は何も言わなかった。
戦隊にこそ関わっていなかったが、別段休んでいたわけではなかった。
「そして、第四戦隊」
泉の声にまた硬いものが混じった。
「二〇三七年に結成された三ツ星戦隊スタースリー。姫木さんがリーダーを務めた戦隊、でしたね?」
青年の目が私を見つめた。
・第四戦隊――三ツ星戦隊スタースリー(二〇三七年結成)
「え、リーダーだったの? みさとさん、すご――」
侑夏の言葉を、泉は手で制して遮った。
「彼女は、三ツ星戦隊スタースリーを率いてたった八か月で侵略者であるデストロゴアを壊滅させた。問題はそのあとだ。あなたはデストロゴアの兵器を奪い、ほかの星々や銀河に潜んでいるであろう悪の組織に先制攻撃を仕掛ける事を提案した。そう聞いていますが、これは事実ですか?」
……想定通りの質問だ。
「泉君――」
「そうだよ。事実だ。当時のレッドとブルーに力尽くで止められたけどね」
優一郎が何か擁護でもしようとしていたので、私は先に言った。
「この話、この場じゃ知っているのは優一郎くらいだと思っていたけど。情報通のようだね。泉秋次君?」
「そりゃ先輩戦隊の事は知っておいて損はないですからね。色々と深いところまで調べますよ。竜巻司令。この話が事実なら、彼女は危険な敵の兵器を、私情で奪い使用するつもりだった。傍目にも危険思想だと思いますけど、本当に彼女はスーツの着装者として選ばれたんですか」
「もちろんだ。開発者のバン・バーニヤンも認めているし、君も実際に彼女がバーニンピンクとして戦っているところを見たはずだ。彼女は紛れもなく爆新戦隊バーニンジャーの五人目だよ」
「信じられない。実刑は受けていないようですが、彼女はいわば犯罪者なわけでしょ。それじゃ、バーニンジャーの力を何に使うかもわからないじゃないですか」
泉の語調が強くなった。優一郎は冷静に言葉を返す。
「泉君。彼女が兵器使用を試みたのは私も知っている。だが、それは少なくとも人間社会や地球をほかの脅威から守るためだった。何も悪事のために使おうとしたわけじゃない」
赤いチェックシャツを着た少年の腕がおずおずと上がったのは、その時だった。
「……僕も、姫木さんは悪い人じゃないと思います。今日だって、姫木さんはシュレッダが人を襲うところを助けてくれました。そんな人が――」
「悪いが甘い。ようは感情を制御できずに何をするかわからないところがあるって事だ。そんな人にバーニンジャーの力は預けられないだろう」
切れ味を増す泉の勢いに、侑夏が割って入った。
「いやいや。秋次さんも少しキレすぎでしょ。初対面なんだから、そんなに悪く言うのやめなよ」
「確かに。落ち着いたほうがいい。経歴はともかく、適性があるのは見た通りだ」
黒ずくめの男――夜見がそう言うと、泉は愕然とした顔をした。
「夜見さんまで。いいですか、俺は何も感情で言っているんじゃないんです。リスクを考えたら到底任せられないと――」
「わかった。オーケー。もういい」
聞いていられなくなって、私は両手を挙げた。
「何度も言うようだけど、私は復帰する気はない。このバーニンチェンジャーとメダルは返す。ほら、この通り」
私は手早く手首からクリスタルのついたブレスレットを外し、ポケットの中にあったメダルと一緒に机の上に置いた。
「あ……」
灯火君が小さな声を出した。が、私は構わず出口へと歩き出す。
「それじゃ。場を荒らして悪かったね。優一郎、それちゃんと返したからね。せいぜい出来のいい五人目を探すんだね――」
「駄目だ。姫木さん!」
何故か、慌てた声を出したのは灯火君だ。
だが、私には反応する余裕がなかった。ブレスレットとメダルをこの身から離して歩き始めると、途端に足に力が入らなくなった。貧血に似ている。視界が揺れる。いや、暗い。身体が倒れていくのがわかる。何故だ。暗い。駄目だ――……
「姫木さん!」
灯火君の声が遠くで聞こえたが、私は意識を失った。




