戦隊ピンクの戦後 8
太陽系。宇宙の暗闇のある一点。
ケルベロス牢獄の最重要獄舎を接収した旧型宇宙戦艦が、小惑星帯の一部に擬態して、ひっそりと留まっている。
希代の宇宙犯罪者、ギャン・デスペラード率いる暴虐集団の本拠地である。宇宙戦艦は太陽系外の惑星から強奪したもの、獄舎は囚われた最重要囚人たちごと奪ったものだ。太陽系はまだ大人しくなったほうだが、宇宙というのは悪党どもが跳梁跋扈する邪悪の暗黒地帯である。組織を巨大に、そしてその影響力を宇宙の隅々にまで広げるには、それなりの実績が必要だった。
「どうなっている? シュレッダ・ザクギリー」
ギャン・デスペラードは戦艦の指揮所で、手駒である囚人の言い訳を聞いていた。ギャン・デスペラードの肉体は屈強そのもの、頭には地球のソンブレロにも似た王族の帽子、青い肌に身に着ける数々の装飾品とスペースシルク製のケープ。下は竜の皮で仕立てたトラウザーズにブーツ。
地球の人間は言うに及ばず、宇宙に慣れた者でさえ近づく事を恐れるであろう威容。
「ギャンギャンスタンプのインクが濃くなっていねーじゃねえか。このままじゃ支配が進まねえ。どうなってやがるんだ?」
『……だから、首領。すまねえ。言った通り、急に妙な奴が現れたんだ。例の戦隊はまだ戦い慣れていないって聞いていたが、新顔のピンクは妙にこなれていやがって』
「おれが聞きたいのは言い訳じゃねえ、シュレッダ・ザクギリー。今後の計画だ。人間どもの〝ピースフル〟を地獄の底まで落とす計画は立ててあるんだろうなあ?」
酒を呷り、グラスを乱暴に置く。すかさず、度数の高い火炎の如き酒が、グラスに注がれる。
首領の酌を務めるのは、ギャンギャングの女幹部、妖艶な肢体をレザーのボンテージで封じ込めた、ソーマ・ザ・プシュケーである。
「シュレッダ。ギャンギャンスタンプは宇宙魔術界の秘宝。絶対支配を可能とする力。お前ならできると判断したから首領は印を押したの。その期待に背くことは許されないわ」
艶やかな声で、ソーマは言った。
『わかっている! オレ様だってこのまま手をこまねいているわけじゃない! 首領、すでに次の計画は立ててある。必ずや地球をあんたに献上しよう。もう少しだけ待っていてくれ』
暴虐集団の首領はしばし沈黙したのち、酒をひと息に飲み干した。
「……いいだろう。シュレッダ・ザクギリー」
コン、と軽やかにグラスが置かれる。
「お前の手腕で、人間どもに悲鳴を上げさせろ。特に新顔のバーニンピンク、そいつの悲鳴はぜひとも聞きたい。生け捕りにして、おれの前まで連れてこい」
『了解した、首領。すぐに成果を上げてみせよう』
通信が切れた。
ソーマがグラスに酒を注ぐ音だけが聞こえる。
「いいの? シュレッダの奴、息巻いていたけれど、所詮はただの通り魔でしょ。口ほどの事ができるかしら」
「できなきゃ死ぬだけだ。とはいえ、奴もケルベロス牢獄で千年単位の冷凍刑を受けていた囚人。少しは根性見せてもらわなきゃな」
さっきよりも落ち着いた口調で、ギャン・デスペラードは言った。
「ドクター・ヘルタイム。次の囚人の解凍までどのくらいかかる?」
問いかけられた人物は、のっそりと影から現れた。薄汚れた白衣には様々な計器が取り付けられ、顔面に装着したモノクルがぎらりと光っている。
「ざっと、地球時間で二四〇時間ほどですな。首領」
懐中時計を見つめながら、ドクター・ヘルタイムと呼ばれた人物は答えた。
「やはり、囚人としてのレベルが高ければ高いほど、解凍には時間がかかります。申し訳ないが、こればかりは短縮できませんので。ご承知おきを」
「……いいさ。仕方ない。スタンプを無駄押しするわけにもいかないからな」
今一度、酒を口にし、ギャン・デスペラードは言った。
「だが、シュレッダの後押しくらいはしてやろう。ソーマ、あの用心棒を呼んでくれ。ジャンク・ザ・ジャックを」
「あいつ――」
ソーマは苦々しげに言った。
「『本当に出るべき時までは寝ている』なんて言って、どっか行っちゃったわよ。今頃、船のどこにいるやら」
「探せ。せっかく拾ってやったんだ。あいつにも働いてもらわないとな」
それから、ギャン・デスペラードは独り言のように呟いた。
「地球の戦隊。噂通り手間をかけさせてくれるじゃないか」




