宇宙で一番小さな…… 4
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「戦隊……レッドですか?」
春彦は、呆然としながら聞き返ほかなかった。
戦隊。
かつて、地球を狙う悪の組織と戦った戦士たち。そのチームを示す総称。
戦隊のレッドといえば、春彦の知識ではチームの中心で、リーダーのようなものだったはずだ。幼い頃、春彦の命を救ってくれたあの人だって、誰よりも早く敵陣に切り込み、ほかの戦士の先頭に立って戦っていた……。
「何かの間違いじゃないですか。僕が戦隊だなんて、その……」
「そう思うのも無理はないけど、ボクらの調査に間違いはない。何度も確認したからね」
言って、バン・バーニヤンは手に持ったブレスレットを春彦に見せる。
「これはバーニンチェンジャー。超新星爆発が起こった際に採取できる高位・エネルギー、《バーニン》を利用してスーツを着装できるブレスレットだ。でも誰もが、スーツを着装できるわけじゃない。チェンジャーのクリスタルの元となるコアブロックに選定され、バーニン適性を持つ人間でなければ、新たな戦隊のスーツを纏う事はできない」
「……それが僕だっていうんですか」
「戸惑うのも無理はない。灯火君」
スーツ姿の男性が、バン・バーニヤンに代わって言った。
「だが、事実だ。この戦うための力は、誰にでも扱えるものじゃない。代われるものなら代わってやりたいが、ほかの誰にも託せない。膨大な数の人間を調査した末、やっと見つけたのが君なんだ」
「いや、困りますよ! そんな事、急に言われたって!」
思わず大きな声で反論してしまい、途端に身体が痛んだ。昨日負った怪我が、意地悪く自己主張してくる。
「……この怪我、見ればわかるでしょ。僕は別に、運動も得意じゃないし、喧嘩だって強いわけじゃない。戦隊って戦うんでしょ? じゃ、弱い人間には向かないじゃないですか。だいたい、地球は平和になったんでしょ。今さら、何と戦うっていうんですか」
「新たな敵だよ」
バン・バーニヤンは真面目な口調で言った。
「地球はまたしても狙われている。新たな敵には、新たな戦士が必要だ。君は自分の事を弱いというが、バーニンは身体能力を飛躍的に向上させる。そして、スーツには戦闘教育プログラムもある。装着すれば、君はあっという間に戦士となる」
しれっとした調子で、バン・バーニヤンは続ける。
「何を隠そう、ここにいるユーイチローも元戦隊レッドだ。この地球でいうところの二代目の戦隊、レジェンドファイブのリーダーさ。当時は、確か冒険家だったんだっけ?」
「今はよせ。バンバン」
ユーイチローと呼ばれたスーツ姿の男性は、渋い顔で言った。
だが、春彦にしてみれば、到底聞き流せる言葉ではなかった。
「……元戦隊?」
内心に抱いたもやもやとした感情が言葉に出るが、バン・バーニヤンは意に介した様子はなかった。
「そうさ。まあつまるところ、彼も当初は戦いの素人だった。でも戦隊アイテムのバックアップがあれば、たちどころに戦士に――」
「そんなのどうだっていいですよ! その人が元戦隊なら、またその人が戦えばいいじゃないですか!」
気持ちが抑えられなかった。そもそもこの宇宙人は一体どういうつもりなのか。
春彦に適性がある? 知った事か。急に戦隊レッドになれと言われて、なれる人間がいるはずがない。
「……ユーイチローにはバーニン適性がない。残念ながらね。でも、どうもそういう意味じゃなさそうな気がするな」
さっきよりは落ち着いた口調で、バン・バーニヤンは言った。
「戦隊レッド、なりたくないかい?」
「なりたくありません。勝手にスケッチブックも見られて、正直不愉快です」
こんなふうに他人に怒りを抱くのは久しぶりな気がする。苛々を隠せないまま、春彦は睨むようにバン・バーニヤンを見た。
「……君の怒りはわかる。こんな話、誰だって困惑するだろう」
宇宙人が何かを言う前に、ユーイチローというスーツの男性が口を開いた。
「だが、危機はすぐそこに迫っている。君がもし、戦士の役割を引き受けてくれるなら、我々が現時点で知り得た事を話そう。想像してみてくれ。最後の脅威から三年かけて、我々はここまで復興した。それが今また、敵の手によって崩れ去ろうとしている。だが、もし君が戦ってくれるなら――」
「だから嫌だって言ってるでしょう!」
荒い息をつくほど、大きな声を出した。春彦の拒絶に、二人は押し黙った。ようやくだ。春彦自身にも根源がわからない怒りが湧き続けている。身体に負った傷が痛むからか。自分でも不出来とわかる創作物を覗き見されたせいか。それとも、誰も引き受けたがらないであろう大役を、いきなり任せようとしてきたせいか。
いや、本当は――
「……仕方ない。今日は引き上げよう。ユーイチロー」
淡々と、バン・バーニヤンが言った。
「適性がある人間の調査は今も続いている。案外、この瞬間にも二人目が見つかっているかもしれない」
「バンバン。しかし、彼の協力が得られなければ――」
「この様子じゃ、今話しても無駄さ」
幼さを感じる声に、大人びた冷たさを滲ませて、バン・バーニヤンは言った。
「しかし。君は依然最も可能性のある人物だ。頭を冷やして、興味が湧いてきたら、いつでも連絡してくれ。ユーイチローの名刺を置いていくから」
言いながら、バン・バーニヤンは小さな紙切れを一枚、ベンチの上に置いた。
「そんな事はあり得ませんよ」
ちらとその紙切れに目を槍ながらも、春彦は硬い声で言った。
「そうかな。この宇宙には様々な可能性がある。仮に君がこのバーニンチェンジャーを使えば、昨日君に暴力を振るった人間なんて余裕で叩きのめせるだろう」
「バンバン! 何て事を言うんだ!」
血相を変えて怒るスーツの男性に対してバン・バーニヤンはあくまで冷静だった。
「可能性の話だよ。ま、ボクらも私的な仕返し目的でのスーツの利用は承認しない。だが、バーニンの効果は本物だ。一度身体に行き渡れば、その怪我でさえたちどころに治癒させる」
宇宙人は背を向けながらも、最後に振り返って言った。
「たとえ君が〝超〟のつく人間でなくとも、このバーニンチェンジャーとボクらがいれば、君を新たな自分へと変身させてあげられる。千載一遇の爆新チャンスだ。よく考えてみてくれよ?」




