表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦隊ピンクに復帰したけど、やっぱり引退したい  作者: 安田景壹
EXエピソード 1 宇宙で一番小さな……

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/50

宇宙で一番小さな…… 1


      〇


 十年前。流星群を見た。

 それは、多くの天文学者、科学者が予期していない、まったく急な来訪だった。

 十年前のその晩、地球上のほとんどの人が、その流星群を見た。地球上のありとあらゆる場所から観測できた、奇妙な天体ショー。


 当時、七歳だった少年も、自宅の庭からそれを見た。

 夜空を光が流れていく。赤、青、緑、黄色。色とりどり光の、終わりない飛行。まるで宇宙の端々から星屑が集まってくるかのような。


 そう、皆が見た。あの日、あの時間、地球上で夜空を見上げていた皆が。空に、巨大な穴が開くのを。降り注ぐ流星が、次第にその穴へと集まっていくのを。

 深淵の如き真っ暗な穴に、いくつもの稲妻が閃き、奇怪な音が響き渡る。幾人もの人々の目に、天に開いた穴の中で、何かが蠢くのが映る。

 当時七歳だった彼、灯火(ともしび)春彦(はるひこ)も、その現象を見た。空の穴――巨大なポータル()から、異様な姿の怪物が現れるのを。


 十年前、流星群の夜。

 空から《恐怖の大魔王》が降りてきた。





      1


 カキン、という小気味よい音がグラウンドのほうから聞こえた。野球部の部活だった。野球とは縁もゆかりもなかったが、灯火春彦はしばらくその様子を眺めていた。野球部の部員たちは春彦に気付くこともなく、楽しげに練習を続けている。

 球技は苦手だ。運動自体、さして得意ではない。


 グラウンドを眺めるのをやめて春彦は帰路に着いた。頭の中が忙しかった。異世界に迷い込んだ少年の話を、もう何日もこねくり回していた。現実世界に嫌気がさしていた少年は、ある日ふと異世界に迷い込む。そこはいわゆる剣と魔法の世界で、怪物たちが跋扈し、冒険者たちがダンジョンを攻略している。少年は古びた剣を拾い、可愛らしい魔術師の少女と出会う――……


 この話、漫画にしたい。ぼんやりと、そういう願望があった。だが春彦は絵が描けない。何度か紙に描いてみたことはあったが、とても人に見せられたものではなかった。だから、頭の中でお話をこねくり回すのが精一杯だ。


 灯火春彦。十七歳。


 十年前の流星群事件を皮切りに、世界は激動の時代を経験した。だが、勇敢な精神を持ったとある〝人々〟の活躍によって、世界はついに平和な時代を取り戻した。

 春彦が、実現する当てのない漫画のアイディアを考えながら、無事高校に通えているのはそういう事情だ。復興は進み、世の中はかつての日常を取り戻そうとしている。


「――人類が滅亡しかかってんだよぉ」


 およそ、平和とは無縁そうな柄の悪い声が聞こえたのは、駅へ向かう途中の人気のない路地裏からだった。


「この十年で世界の人口は七十億人になっちまったんだ。加えて時代は少子化だよ。だからさ、今の時代に必要なのはカップルなわけ。わかる?」

「は、はあ……」


 路地裏に人影は四人分あった。うち三人は、黒革のジャケットに刺青や金髪といったファッションの、いかにも危険そうな感じの若い男性だ。そしてその三人に追いやられるように、制服姿の女子学生が青い顔で震えている。

 あの制服、同じ学校だ……。


「ばぁか。お前、ほんとナンパ下手だよな。何言いたいのか全然わかんねえ」

「うるせえなあ。わかんだろ、カップルって言ってんだかんよ」


 最初に女子学生に声をかけていた金髪の男が、げらげらと笑いながら茶々を入れた刺青の男をどつく。もう一人の男がへらへらと笑いながら女子学生に顔を近づけた。


「つまりさあ、君可愛いから、俺らと付き合ってほしいわけ。君と俺らが付き合ったら、三カップル成立じゃん? やりぃ! 少子化解決だよ?」

「あ、あの、嫌です……」


 震えながら、何とかそう答えた女子学生を見て、不逞の輩が一瞬の間ののち、げらげらと大爆笑する。


「ぎゃはははは! 嫌だってさあ!!」

「お前の顔が悪いからだよ! ったくよぉ!」

「ごめんねえ! でももう一回、もう一回チャンスちょうだい? な!」


 男たちは異様な態度で、女子学生に迫っていく。

 いかにも、昔の漫画で見そうなシチュエーションだった。漫画は好きだ。よく読んでいる。

 だから考えるより先に、感情より先に、身体が動いた。


「ま、待て!」


 声が、うわずる。心臓は、ばくばくと鳴っている。

 ――怖い。


「な、カラオケいこ? とりあえずさあ、歌でも歌ってさ――」

「待てって、言ってるだろ!」


 さっきよりも大声を出した。手足が震えている。

 ようやく、三人の男たちと女子学生が春彦のほうを向いた。


「あ? 何、お前」


 刺青の男が、春彦を上目遣いに睨みつける。相手は人間だ。春彦と同じ人間だ。歳はたぶん向こうのほうが上だが、人間だ。

 でも、怖い。


「や、やめろよ! 嫌がってるじゃないか。その子を放せよ!」


 一瞬の間。彼らの中で何かが弾けそうなのがわかる。

 ぞわ、と胸の中がざわついた。


「「「ぎゃははははははははっ!!」」」


 哄笑。嘲笑。大爆笑。

 最高のコントか漫才でも見たような、でも確実に人を馬鹿にした笑い声が路地裏に響いた。


「やっべええ! 正義の味方登場――――!!」

「FOOOO!! 俺ら怪人みてえじゃん!」


 新しい獲物の登場に、男たちのテンションは最高潮に達していた。三人ともが、春彦のほうへと近付いてくる。

 がっ、と。

 強い力で肩を掴まれた。


「で、どうすんの? このあと? 俺ら、やっつけちゃう? 《戦隊》みたいに?」


 身体の震えは隠しようがなかった。男の顔が近い。凶悪な顔が。春彦のことなんて何とも思っていないような顔が。


「や、やめて……やめてくれたら……別に……」

「別にってことはねえだろ、なあ?」


 金髪の男が満面の笑みで笑った。


「もっとお話ししようぜ?」




 痛みと衝撃が、五回を超えたあたりから記憶がなかった。顔面、腹、肩、胸、どこもかしこもひどく痛かった。


「あ……い、痛っ」


 口の端も切れている。痛い。痛い。

 男たちはもういなかった。春彦は路地裏よりさらに奥の、誰も来なさそうな暗がりで一人倒れていた。通学鞄がべこべこにへこんでいる。制服は端々が破れ、血が飛び散っている。

 女子学生は、逃げたらしい。


 空が見える。両目で。だから、少なくとも目は大丈夫だと思った。

 ――十年の間に、地球は四度悪の組織に狙われ、平和は脅かされた。だが、四つの《戦隊》が悪の組織を撃退し、平和は再び戻ってきた。


 でも、こういうことは未だある――みたいだ。

 自分で経験するとは思っていなかった。


「……メグルンジャーみたいにはいかないなあ」


 思わず口をついて出た。十年前の思い出。奇跡みたいな出来事が、頭を過ぎった。



 ――これは、爆新戦隊バーニンジャー――その五人のメンバーが集うまでの話。

 最初の一人、灯火春彦が、戦士に選ばれた時の話――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ