五代目戦隊の戦い 14
いちはやく分析を終えた泉君が叫ぶ。
「地球へ向かっている! 衝突した瞬間爆発する!」
「っ、バーニンジャーロボ!」
私たちの意識が、ブースターを再起動させる。もはやバーニンの残量を気にしている場合ではない。極大加速したバーニンジャーロボは赤く熱されながら、地球へ迫るネガティブエネルギー・コアを追う。
「必殺剣は!?」
「あと一回!」
私は答えながら、バーニンジャーロボに構えを取らせる。地球はもうすぐそこだ。ネガティブエネルギー・コアが大気圏へ刻一刻と近付いている!
「ゲート形成!」
ネガティブエネルギーによる僅かな時空の歪みを利用し、バーニンで素早く移動ゲートを形成。距離を縮める。剣の届く範囲まで――!
「「「「「バーニンジャーロボ必殺剣!!」」」」」
最終加速――最後のバーニンが刀身を流れる。
「「「「「爆新ワープ斬り!!」」」」」
コアと刀身が接触する。その瞬間、ぶつかり合うエネルギーが渦を生み出し、巨大な衝撃波を生んだ。耐えられない。バーニンジャーロボは剣とともに弾き飛ばされる。
地球へ――青い星へ。
「うわあああああっ!?」
もはや誰が声を上げているかもわからない。バーニンジャーロボはぐるぐると回転しながら大気圏へと突入。猛スピードで落下する。その到達地点は――
「海だ!」
落下予想地点を確認した私は叫ぶ。
「衝撃に備えて!」
「いや、無茶――!?」
侑夏がそう言った瞬間、猛烈な衝撃とともに、バーニンジャーロボは海へと落下した。
静かだった。
コクピット内は照明が消えている。真っ暗だった。システムがダウンしている。警報さえ鳴っていない。
私は手探りで、コクピットの緊急開閉レバーを探す。落下の衝撃で気を失っていたらしい。ふらふらとするが、幸いスーツは無事だ。身体機能を回復させるだけのバーニンがスーツに残っている。
レバーを見つけ、下方へと動かす。コクピットのドアが開錠された。
外へ出ると、やはりそこは海上だった。温かなオレンジ色に染まった空が見える。真っ赤な夕日が、水平線の向こうへと沈もうしていた。
「あ、みさとさん!」
ヘルメットマスクを外した侑夏が私に気付いた。ほかのメンバーも、すでに外へ出ていた。皆、ヘルメットマスクを外している。どうやら怪我をしている者はいないようだ。
「大丈夫ですか!? みさとさん!」
灯火君が駆け寄ってくる。私は、頷いた。
「大丈夫、何ともない。皆は?」
「平気です。バーニンジャーロボが守ってくれたみたいで」
近くの岩礁にバーニンソードが突き刺さっている。私は、空を見上げた。
「……ネガティブエネルギーは?」
「そっちも問題ありません」
答えたのは泉君だ。
「つい今、バンバンと連絡が取れました。地球へのネガティブエネルギーの飛散、および地球近辺にネガティブエネルギーの反応はなし、だそうです」
すぐに迎えがくるみたいですよ、と泉君は付け加える。
よかった。
作戦は成功し、戦隊メンバーは皆無事だ。誰も欠けていない。
「つまり、あの夕日を今しばらくは眺めていられるって事ですよ」
そう言って、夜見君が笑った。
バーニンジャーロボが夕日に照らされている。海は穏やかだった。
「いやー……でもボロボロすぎ」
侑夏がちょっと疲れた様子で笑った。
「地球を守るって、ホントに大変だね。先輩戦隊たちなら、こんなにボロボロにならずにやれるのかな?」
「そんな事はない。最初は皆、こんなもんだよ」
私は即座に言った。
「何はともあれ、地球は守れたんだ。まずはそれでいいんじゃないかな」
「まあ……それはそうなんだけど」
夜見君の言葉にも、侑夏はどこか不安そうだ。
「――もっと、強くなりたいな」
そう言ったのは灯火君だ。
「これから、もっと強い敵が出てくるなら。そんな奴らとも戦えるように、強くならなくちゃ」
「焦ってもしょうがない。今はやれる事をやるしかないさ」
泉君が夕日を眺めながら言う。
「……ねえ、なれるかな」
侑夏もまた夕日を見ながら言った。
「うん?」
「わたしたち。今よりもっと強い奴とも戦って、何度宇宙に行っても、どこに行っても、最後はこうやって皆で夕日を眺めていられるような戦隊に……。わたしたち、なれるかな?」
それは――
わからない。この地球でかつて戦った四つの戦隊は、必ずしも戦いを終えて幸せになったわけではない。
辛い結末だってあるのだ。この戦いが地球を守る戦いである以上。
だが、もし――
「それは、すごい事さ。戦いを終えて、無事に帰り、こんな気持ちでいられるような戦隊は。ただの戦隊じゃない」
夜見君がそう言うと、少しして灯火君が、私を振り返った。
「あの、姫木さん……もしそんなチームになれたら。僕らがギャンギャングとの戦いを終わらせて、またこうして夕日を見られたら――」
「どんなふうに呼ばれるかな、世間の人からは」
泉君が独り言のように言った。
私は夕日を見つめる。数多くの失敗をした。私は、とても立派な人間とはいえない。でもそんな人間が、またこうして新しい仲間と戦隊をやっている。もし、今度こそ過たず、誰も失わず、使命を全うし皆と一緒にいられるなら――
「……そんな戦隊になれるなら。もしも、そんな戦隊がいるのなら――」
岩礁に突き刺さったバーニンソードが、夕日に煌めいた。
「〝スーパー戦隊〟とでも、言うんじゃないかな」
旧型宇宙戦艦クイーン・サスペリア艦内――その指揮所に集った三人、ギャン・デスペラード、ソーマ・ザ・プシュケー、そしてドクター・ヘルタイムは事の顛末をモニターで見ていた。
ホムンクルス、爆散。
ネガティブエネルギーはバーニンによって打ち消された。
「……やれやれ」
「ちぇ~~。つまんなーい。地球、爆発しなかったじゃな~~い」
「ふん」
ギャン・デスペラードは酒を呷り、モニターを眺める。バーニンジャー。予想以上に、やる。いや、しかし予感はあった。あの五人なら、この程度の危難を退けるだろうという予感が。逆に言えば、まだまだ楽しめるという事。ギャンギャングと爆新戦隊バーニンジャーとの戦いを――……
ふっ、と。
蝋燭の明かりを消すかのように、指揮所の照明が落ちた。
「――何事です?」
「ちょっと、急に何なの!? 動けないんだけど!?」
……動けない? 確かに、そうだ。玉座に座ったままのギャン・デスペラードも、そこから立ち上がる事ができない。何か、見えない力で抑えつけられているかのような。
魔術の波動――
「首領」
ぱっ、と。ひとつの照明だけが灯った。
その下で、襤褸のようなマントを纏った者が跪いている。傍らには異形の剣。復讐の女神の顔を彫刻した大剣がある。
「暇をもらうぞ。俺は旅立つ事にする」
ジャンク・ザ・ジャック――流浪の剣士となったギャンの手下が、鋭い切っ先のような目を向けて、そんな事を言った。
「おれの元を離れるのか、ジャンク」
身動きは取りづらいが、酒くらいは飲めるようだ。ギャン・デスペラードは酒瓶を口に運ぶ。
この魔術――おそらくジャンク・ザ・ジャックが放ったもの。発動まで一切気が付かなかった。やはり、こいつは凄腕だ。ギャンが見込んだ通りの。
「ああ、そうだ。やりたい事ができたのでな」
「邪装騎士に戻るってか?」
ジャンク・ザ・ジャックは、首を横に振り、剣を持って立ち上がる。
「過去を見るのではない。未来に向かいたいのだ」
「……ふん。未来、ねえ」
「お別れだ、首領。短い間だったが、世話になったな」
「お前の事は買っていた。どうしても行くのか? ここでなら好きなだけ暴れられるってのに」
ジャンク・ザ・ジャックはくるりとマントを翻した。
「誰かの元で探せる道ではない。さらばだ、デスペラード」
言って、ジャンク・ザ・ジャックは虚空に消えるかのように、その姿を消した。
照明が元に戻る。身体を抑えつけていた超常の力が、消える。
「……ねえちょっと。今の、ジャンクの奴?」
動けるようになったソーマ・ザ・プシュケーが問う。ギャン・デスペラードは鷹揚に頷いた。
「ああ。暇乞いだ」
酒瓶を呷り、ギャン・デスペラードは皮肉気に嗤う。
「……まったく。頂点を獲るのも楽じゃねえな」




