五代目戦隊の戦い 8
バン・バーニヤンは忙しくキーボードを叩き終えた。ある重要なプログラムの調整作業がようやくひと段落した。あとは、バーニンジャーたちの手によって完成まで仕上げてもらうだけだ。
だが、そのバーニンジャーたちは今、五人が五人とも医務室にある医療カプセルに中にいる。ギャンギャング幹部、そして首領であるギャン・デスペラードとの戦闘を何とか切り抜けたものの、激闘の中で、短時間に大量のバーニンを使用した彼らの身体は疲労困憊の状態であり、医療カプセルでの休養を余儀なくされていた。
時計を見る。彼らがカプセルに入ってからまだ一時間も経っていない。バン・バーニヤンの懸念は次の攻撃だった。敵にしてみれば、間を置かず攻撃を仕掛けてくるのが一番理に適った戦法だ。そして、おそらくそれはくる。戦闘データを見る限り、ギャン・デスペラードはバーニンジャーたちを気に入ったようだが、だからといって正々堂々というわけでもないだろう。こちらが手負いなら、必ず仕掛けてくる。
「ふう……」
バン・バーニヤンは異星人である。複数の物事を同時並行で、深い思考のもとに行えるよう特殊な訓練を受けている。これは地球人の脳では難しい技術だ。だから、バーニンジャーの現状に対する適切な処置と並行して、重要プログラムの調整作業ができた。ほかにも彼は、バーニンマシンの修復作業についてもスタッフに指示を飛ばしている。特性サポート機能はバーニンジャー各員と各マシンを精神リンクして使用するため、システム面への負担が大きい。将来的には改善したいところだが、今すぐには無理だ。
「悠長な事を言っていられる時間があるかな」
いかに現在で深い並行思考ができようと、未来を見通す事はできない。今、優一郎がフランスから各国に掛け合って、複数の軍事衛星の索敵機能を使い、宇宙でギャンギャングの動きがないかを探ってもらっている。少しでも早く敵の動向がわかればいいが……。
電子音が聞こえた。医療カプセルの一つが開いたのだ。
「……?」
設定した時間にはまだ達していない。中の誰かが内側から開けた事になるが。
「……君か」
蓋を閉めた姫木みさとが、バン・バーニヤンを見ていた。
「どうしたんだい。まだ身体は万全でないはずだ」
「身体のほうはもういい。煙草の時間」
「ここではよしてくれよ。医務室だから」
煙草の事はともかく、姫木みさとはまだ顔色が悪かった。
「何か、文句があるんじゃないの?」
「文句?」
「バーニンチェンジャー。勝手に改造したからさ」
姫木みさとは悪びれもせずに言った。が、出会ってまだ日が浅いとはいえ、バン・バーニヤンには姫木みさとがどういう人間か、何となく理解できていた。おそらくだが、内心で、多少は、バーニンチェンジャーを勝手に改造した事を悪いと思っているのだろう。
「ああ……あれね。いや、実際困っているよ。メグルンブレスと接続するために変なプロトコル入れたでしょ。おかげでバーニンスーツの着装システムの動きが悪くなっている。もう何度か変身したら本当に壊れるかもね」
「げ……」
しまった、という感じで、姫木みさとは顔を逸らした。
「……何とかなる?」
「次の一回分くらいは。そのあとで手を加えないと駄目だ。全く、あんなに系統の違う機械同士を無理やり組み合わせたのは驚きだけど、後先を考えていなかったようだね」
「何としてでも勝たなきゃいけなかったから」
「昔の因縁……という奴だね。アンゴルモアの生き残りがまだいたとは」
「私がまだ生きている。という事は向こうにも生きている奴がいるでしょ。そういうもんよ」
言って、姫木みさとは顔をしかめた。身体のどこかが痛むらしい。
「ほら。まだ医療カプセルに入っていなきゃ」
「そんな暇はない。ギャンギャングの連中が仕掛けてくるなら今が絶好の機会よ。準備をしないと」
さすがに歴戦の戦士だ。こういう状況には慣れているのだろう。バン・バーニヤンは引き出しを開けると中に入っていたケースを取り出し、姫木みさとに向けて放った。特に苦も無く、姫木みさとはそれを受け取る。
「これは?」
「試作品の強壮薬。一回打てば一時的にバーニンが増える」
オレンジの液体が入ったケースを見つめるみさとに、バン・バーニヤンは続けて言った。
「ミサト。わかっているとは思うけど、危ないのはチェンジャーだけでなく君自身もだ。先日話した検査の件、なるべく早く受けてほしい」
姫木みさとはちらとバン・バーニヤンに目をやり、それから強壮薬のケースを剥き出しの腕に当て、スイッチを押す。ケース内の液体が減り、みさとの体内にバーニンが急速に増えていく。
「明日のこの時間にもう一度同じ話をできるなら、考えてみる。今は迎撃準備を整えないと。私のチェンジャー、どこにある?」
「マシンアルラウネのメンテナンススタッフに預けてある。君もそこに行ってくれ。アルラウネと君はまだ交信して日が浅い。コクピットに乗って、少しでもマシンに慣れておいてくれ」
「……ということは」
姫木みさとは何かに思い当たったようだった。バン・バーニヤンは頷く。
「ああ、そうだ。ついさっきプログラムの調整が終わった。ぶっつけで悪いけど、やってもらう事になるだろう。爆新合体だ」




