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戦隊ピンクに復帰したけど、やっぱり引退したい  作者: 安田景壹
第三章 五代目戦隊の戦い

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五代目戦隊の戦い 1

 フランス・パリ。深夜。

 爆新戦隊総司令竜巻優一郎は、ノートパソコンを前に目頭を押さえた。

 懸念が山ほどある。肝心要(かんじんかなめ)の爆新戦隊のメンバー問題もそうだし、装備やメカニックの素材となる鉱物を採掘する鉱山惑星(銀河エネルギー管理庁との契約により、現在、三つの鉱山惑星からの採掘を許可されている)の労働環境問題、戦隊システム、バーニンスーツやそれに代わる装備の生産、各国への配備など、地球防衛連合全体で考えていくべき事案が山積している。今のところ、ギャンギャングが狙ってくるのはバーニンジャーがいる日本だけだが、もし敵の規模が拡大し、攻撃の手が広がったら……。


「ふう……」


 総司令に就任してから、酒は控えるようにしている。だが、この深夜まで仕事をしていて、頭が少し疲れてきた。冷凍庫から大きめの氷を見繕ってグラスに入れると、ミニバーに備え付けのウィスキーを注ぐ。酒を口にしたが、旨いかどうかは感想が湧かなかった。疲れている。


「……みさと」


 日本はもう朝を迎えている。優一郎が不在の場合、バン・バーニヤンが指揮を執る事が許可されている。あれから報告はない。一体どうなっているのか。

 ふと、携帯電話が鳴った。電話の着信ではなく、メッセージの受信。

 仕事用のスマートフォンだ。メッセージの差出人は、姫木みさと。文面は、ひと言だけ。


『バーニンジャーの選定に間違いはなかった。ありがとう』


「……ふっ」


 全く。今もまだ子どもみたいな奴だ。

 だが、彼女がいるなら。今の彼女なら、大丈夫かもしれない。

 優一郎は手早くメッセージを返す。

 こちらも頑張らなければならない。


『頼んだぞ。バーニンピンク』



 ――旧型宇宙戦艦クイーン・サスペリア艦内。その指揮所。


「ジャンク・ザ・ジャックと連絡が取れない?」


 ギャン・デスペラードは低い声で、ドクター・ヘルタイムに問い返した。ソーマ・ザ・プシュケーは「あら」と可愛いらしい声を出す。


「どうやら意図的に通信を切っている様子。ギャンギャンスタンプの消失まで、残りあと一時間というところですが」

「位置は追えるだろう? どこにいる?」


 ヘルタイムは空間に地図を浮かび上がらせた。いくつかの光点が点滅している。


「スタンプからはずいぶん遠い位置ですな。代わりに、ロック・ロック・プリィズンはすでに動いているようです。スタンプ周辺の街に向かっています」

「一体何を考えてやがる。あの用心棒は」


 苛立つギャン・デスペラードの手の甲を、ソーマ・ザ・プシュケーは長い爪でなぞった。


「もしかして、地球に因縁のある相手でもいたんじゃない? ジャンク・ザ・ジャックって名前も偽りの名でしょ。でなきゃ、いきなりこんな自分勝手には動かなくない?」


 ふむ、とギャン・デスペラードはしばし沈黙する。


「……ヘルタイム。ここの偽装システムは正常に作動しているか?」

「もちろん。我らを探す者が、どんなに目を凝らそうとも、その目に映るのは闇ばかり。絶対に見つかる事はありません」

「どうしたの? 首領」

「何。たまには全員で現場見物も悪くないかと思ってな」


 言って、ギャン・デスペラードは悪夢を見せる冥王星の氷で割られた酒を口に運ぶ。



 約束の場所には、苦い思い出がある。メグルンジャーとして戦っていた時の事だ。打倒メグルンジャーを掲げるガルドランは、メグルンレッドに直接対決を挑んできた。だが、その裏で別の幹部が手柄を横取りすべく、強力な双子怪人ボンバリアンとブリザリアンの兄弟を派遣する。メグルンジャーは戦力を分断されたうえに、メグルンレッドがボンバリアンの攻撃によって重傷を負う。


 焦った私たちは一計を案じた。メグルンレッドとの直接対決を望むガルドランを一時的に味方に引き入れようとしたのだ。ほかの幹部の企みによって、横槍を入れられたガルドランなら、あるいは手を貸してくれるかもしれない。今、考えても馬鹿馬鹿しいが、あの時はこのアイディアを実行するほかなかった。

 交渉に赴いたのは、私だ。


『――この俺に結社を裏切れというのか。愚か者め。戦士の誇りもない。貴様のような奴が、メグルンジャーの一員だというだけで怒りが抑えきれぬわ!』

『だったら勝負で決めましょう! 私が勝ったら言う事を聞いてもらう! どう、できる? 一応騎士なんでしょ!?』

『貴様ぁ……!』


 あの時の怒りに燃えるガルドランは、恐ろしく強かった。

 ――某県。山中。

 十年前とそう変わらない採掘場跡地に、私は足を踏み入れた。

 スーツはすでに着装済みだ。あいつが変身を待たず攻撃してくるとは思えないが、戦いが待つと思うと身体が勝手に変身していた。

 古びた採掘施設の前に、ジャンク・ザ・ジャックと名を変えたガルドランが立っていた。奇妙な色の液体の入った瓶を呷り、殺気も怒気もない落ち着いた様子で、私が歩いてくるのを見ている。


「来たか。待っていたぞ、メグルンピンク」

「決闘前に酒とは余裕だな。ガルドラン」


 剣士は、にっと笑ってみせた。


「こいつは酒じゃない。俺ももう昔のままの肉体ではないのだ。十全に肉体を動かすには、飲みたくないものとて飲まねばならん」

「それはご愁傷様。そっちが一杯やる余裕があるんだったら、変身せずに来るんだったわ。この恰好じゃ一服できないし」

「ふふ。生憎だが、俺のほうはもう終わるのでな。吸いたければ、あの世で好きなだけ吸うがいい」


 言って、ガルドランは空になった瓶を投げ捨てた。

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