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戦隊ピンクに復帰したけど、やっぱり引退したい  作者: 安田景壹
第二章 あれはあの日の流れ星

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あれはあの日の流れ星 14

 作業を終えてシャワーを浴びると、辺りはすっかり夜だった。この時間なら、もう泊まってしまったほうがいいだろう。夕食はレトルトしかない。支度というほどの事もないが、準備を始める。

 残念だが、基地には戻れそうもない。明日、私はガルドランと戦う。最悪の場合、そこで果てるだろうが、仮に生きて帰ったとしても独断専行で今度こそ拘束だ。長い裁判になるだろう。


「打ち納めでもしとくべきだったかな……」


 結局、無理だった。戦隊なんてものは。


『地球を狙う輩はあとを絶たない。この十年ずっとそうだ』


 ――あの時、シュレッダ・ザクギリーを退けたあと、私はバーニンジャーの面々にスタースリー時代の失敗を語った。


『地球が狙われないようにするためには、それ相応の脅威とリスクを示さなきゃならない。だから私は、デストロゴアの兵器を使っての先制攻撃を実行しようとした。悪党はこの宇宙にたくさんいる。先んじて何十件か始末しておけば、もう軽々しく手出しされる事はないと踏んだんだ』


 あの時の、彼らの神妙な顔。呆れられたのか。引かれたのか。

 だがまあ、あんな話をしたあとでも、バーニンジャーは普通に接してくれた。戦隊経験者というのが、彼らには必要以上に大きく見えたのかもしれない。

 結局、怒りに任せて飛び出してしまった。


 私という人間はつまりそうなのだ。どのような集団に身を置こうとしても、離脱を繰り返す。留まる事などできない。何かを壊しながら、あてもなく流れ続けていく。

 こんな人生は途方もない冒険ではない。伝説となる道のりでも、輝かしい三ツ星でもない。バーニンメダルの刻印は桜の花びらのようだが、私自身は実をつけぬ徒花(あだばな)でしかない。ただの落伍者、破綻者の歩む道だ。傍から見れば無意味だろう。でもやるしかない。これはチャンスなのだ。たとえ一人になったとしても、私の人生のためには、決着をつけるしかない。


「……」


 煙草を銜え、外に出る。街の灯が届かないせいで、ここでは星空がよく見える。

 ――何か、聞こえた。

 木の葉のざわめきか。いや、風は吹いていない。人が来るようなところでもない。だが、音はまだ聞こえる。森の中? いや、上だ。空からだ。


 ――バサッ、バサッ。


 聞こえたのは、羽音だ。羽ばたきだ。

 夜空に、大きな赤い影があった。鳥だ。全長十五メートル以上はあるだろう。猛禽というよりは、何か神聖ささえ感じさせる外観。そう、まるであれは不死鳥だ。

 ――マシンフェニックス。


「まさか……」


 赤い機械の鳥がなるべく低くまで降りてきて、ハッチが開いたかと思うと、中から四人の影が次々と降りてきた。

 風祭侑夏。

 泉秋次。

 夜見冬二。

 そして、灯火春彦。


「君たち……」


 灯火君は私の顔を見て、それから空を見上げた。


「フェニックス、ありがとう。近くで休んでいて」


 マシンフェニックスは答える代わりに、高く鳴き声を上げ、どこかへと飛び去る。


「……何しに来たの」


 居場所が把握されたのはバーニンチェンジャーの位置情報からだろう。さしあたり、優一郎の指示か。


「私を捕まえに来たのなら――」

「違うよ、みさとさん。わたしたち、みさとさんと話しに来たの」


 侑夏が言った。


「話……? 優一郎に言われて来たか。どんな作戦だろうが、ガルドランをやるのは私だ。こればかりは譲れないよ」

「そう。その作戦」


 灯火君が我が意を得たとばかりに食いついた。


「明日の作戦について、話しに来たんだ」



「つまり、二面作戦です」


 泉君がコーヒーカップを片手に言った。

 来客なんて想定していなかったが、セーフハウスには食器を十分に置いてあったので何とかなった。私は煙草に火を着けながら聞き返す。


「二面作戦?」

「そう。俺たち四人は例の岩石怪人――ロック・ロック・プリィズンを迎え撃ち、姫木さんはジャンク・ザ・ジャック……邪装騎士ガルドランと戦う。この作戦なら、姫木さんの独断専行という事にはならない。そもそも二手に分かれる作戦なんだから」

「その代わり、ロック・ロック・プリィズンを撃破するまでの間、我々は姫木さんの援護には回れない。単独でガルドランの相手をしてもらう事になる」


 泉君と夜見君が交互に言った。


「望むところだよ。元からそのつもりだし、そのための準備もすでにしてある」


 私はつい先ほどまで作業していた成果をテーブルの上に並べた。侑夏と灯火君が、驚いたような目でそれらを見る。


「わぁ、何これ!」

「どれも、強そう……」

「手元に残っていたものに、ちょっと手を加えた。バーニンチェンジャーと連動するようにもしてある」

「この短時間で?」


 泉君の問いに、私は頷く。


「まあ、慣れているから」


 それから、私は煙草を置き、皆に頭を下げた。


「ごめん。私のために、皆に気を遣わせて。私が一番大人なのに……。申し訳ない」


 ちょっとの間、沈黙があった。少し顔を上げると、四人は顔を見合わせて、それから言った。


「ほんと、困りますよ!」


 泉君が笑って言った。


「でもあいつ、みさとさんにとっても決着つけなきゃいけない相手なんでしょ? だったら、ここで決めなきゃ!」


 侑夏が溌剌と言い、


「これが済んだら奢ってください。もちろん、ちょっといいお店で」


 夜見君がサムズアップする。


「姫……いえ、みさとさん(・・・・・)


 灯火君が、少し顔を赤らめながら言った。


「信じています。だから、明日は必ず帰ってきてください」


 そう言って、灯火君は細い指で作った握り拳をそっと差し出す。

 ――ああ、そうか。

 今こそ、今こそ私は踏み止まらなければならない。

 怒りと憎しみの暴流に押し流されるだけではなく。

 彼らという戦隊に咲いた、一輪の花として。


「――おう」


 私は、拳をこつんと灯火君の握り拳に合わせる。

 そこに三人分の拳が、さらに合わさった。


「ばくしーんせんたーい!」


 侑夏が、大きな声で宣言する。


「「「「「バーニンジャー!!」」」」」


 その晩、流れ星を見た。

 それは古びた衛星か、宇宙を巡る彗星か。

 闇に消えたあいつが、流れ星に乗って帰ってくるなど、夢想はしない。

 いわく、流れ星は人の願いを叶えるという。

 だが、今の私には叶えてほしい願いなどない。この身体には積み重ねてきた十年があり、この手には困難と戦う力がある。

 背を預けられる仲間さえできた。願いがあらば自らかなえてみせる。

 さあ、十年前の因縁に、今こそ決着をつけにいこう。

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