あれはあの日の流れ星 12
アパートに戻り、必要なものをボストンバッグに詰めると、すぐさま家を出る。バイクで郊外まで急ぐ。周囲に家もないようなところに、素っ気ない造りの四角い建造物がある。
昔、手に入れたガレージ兼セーフハウスだ。ガレージの中に入り、持ってきたものを全てシートの上に出してから、作業に取り掛かった。まず、ノートパソコンでバーニンチェンジャーを解析にかける。それから、持ってきたもののうち、もっとも重要になる三つの物品を並べ、プランを検討する。
メグルンジャー時代の変身アイテム、メグルンブレス。
レジェンドファイブ時代の相棒、キッドブラキオの牙の欠片。
スタースリー時代の愛銃、コメットガン。
「……急がなきゃ」
作業を続ける。優一郎が本気で私の拘束を考えているかもしれない。作業中に捕まるのは御免だ。コメットガンのマガジンを確認。癖のように定期的に行っていた解体点検がこの時ばかりは功を奏した。いくらかでも時間に余裕を持てる……。
ジャンク・ザ・ジャックは、大量の石を詰めたドラム缶を抱えて、建設途中で放棄されたビルの中に入った。人の気配はない。奥に進むと、魔法陣の上で横たわるロック・ロック・プリィズンの姿があった。バーニンジャーたちの前から消えたあと、ギャンギャンスタンプの気配を手掛かりに行方を捜し、傷ついていたこの岩石怪人を回収したのだ。魔法陣は周囲のエネルギーをもとに治癒を行うもので、はるか昔に覚えたのだが、腕は錆びついていなかった。いくらかは、ロック・ロック・プリィズンの傷も癒えるだろう。
「プリィズン、戻ったぞ」
ジャンク・ザ・ジャックが声をかけると、ロック・ロック・プリィズンはうっすらと目を開けた。
「だ、旦那……」
「言う通り、メシを持ってきてやったぞ。本当にこんなものでいいのか」
ドン、とジャンク・ザ・ジャックは石を詰めたドラム缶を置く。
「ありがたい……これでいいんだ。食わないと傷が治らない……ああ――」
言うや、ロック・ロック・プリィズンは起き上がり、ドラム缶から石を取り出して口の中に放り込む。バキン、バキンと音がして、石を飲み込んだかと思うと、また新たな石に手を伸ばす。
「旨い……。久しぶりのメシだ。昔食った宝石よりも断然旨い」
「ふん」
ジャンク・ザ・ジャックには、当然石の味はわからない。ドラム缶の石は河原や野山にあったものを魔術で集めただけだ。ちょうどよく捨てられていたソファに腰かけ、持ってきた瓶の中身に口をつける。
「旦那のそれは……何だ?」
「……何でもいいだろう。今後一生、お前が飲む事はないものだ」
「そうか。高いんだろうなあ……」
ジャンク・ザ・ジャックは答えずに、瓶の中身を少しずつ飲む。
「旦那。オレはこれからどうしたらいい? 教えてプリィズン」
「その呼び方はやめろ。お前の蘇生に使ったギャンギャンスタンプは、消えるまでにまだ時間がかかる。傷を癒し、万全の状態でもう一度暴れるんだ。消失までに人間どものピースフルを最低にして、支配を完了させればいい」
「だが、オレの能力は戦隊連中に知られている。同じ手は通用しないんじゃないか」
「なら別の手でいくだけだ。そのためにも今は休め。どのみち、お前の肉体は長くはもたん。俺の見立てではな。二度目の生を謳歌したいなら、大事に使う事だ」
ジャンク・ザ・ジャックはそう言って、ロック・ロック・プリィズンの内部に秘められたエネルギーの波長を読み取る。見立てに間違いはない。ともすれば――いや、おそらくほぼ確実に、この岩石怪人の命は派手に散る事だろう……。
ロック・ロック・プリィズンは引きつったような声を出し、それから大声で笑い出した。
「何が可笑しい。二度目の死があると知って、耐え切れなくなったか?」
「へ、へへへ。いや、逆だよ。冷凍刑を食らった時とは違うからな。あの時は罰によって死んだ。不本意な死に方だった。今度は違う。やりたいようにやってから死ねる」
「油断しない事だな。バーニンレッドはお前にその傷を負わせた男だ。ほかのバーニンジャーと組めば、お前はあっという間に追い詰められるかもしれん」
「それでもいいんだ。戦って死ねる。一度目の生では悪党の自覚が芽生えた頃に捕まってしまった。今度は最初から悪党だ。同じ命で生き方を変えられる。たとえ短くても」
生き方、という言葉にジャンク・ザ・ジャックは思わず手が止まった。
かつての自分はこんなふうではなかった。こんな薄汚れたところには留まらず、安いものは口にせず、騎士の称号を誇りに、戦いと剣に喜びを見出していた。父の息子である事も誇りだった。父のために弱者を屠り、踏みにじった。邪悪である事は宇宙魔術結社アンゴルモアの幹部としての規範だった。だがそれも、全ては無駄だった。アンゴルモアは敗れ、大帝は姿を現さず、父、ガルゴルは最期の瞬間まで自分の事など歯牙にもかけていなかった。それだけではない。あの時、ジャンク・ザ・ジャックは最低限の誇りさえ傷つけられた。あれから十年が経ち、姿形を変え、復讐の女神の顔も封印して、ジャンク・ザ・ジャックはがらくたの名を名乗るようになった。生き方というなら、これは正しく凋落だ。昔を思えば、見る影もあるまい。
だが、まさか今になって、同じ暗闇に囚われている者と再会するとは……
「旦那。どうしたんです?」
ロック・ロック・プリィズンが、訝しげに訊いてきた。
「何がだ」
「何だか、嬉しそうだ」
嬉しそう? 笑みでも浮かべていたというのか。あの娘の事を思い浮かべたから?
「……そうだな。とても喜ばしい」
異形の魔剣を手に取る。復讐の女神ゼラの顔が露わになるのは何年ぶりか。奇妙な事は、この宇宙にいくらでもある。数奇な星回りが、十年の時を超えて再びジャンク・ザ・ジャックの人生にまで巡ってきた。ならば、この魔剣を思う存分振るう時だ。
「がらくたも宇宙で流れれば星屑になる。だが、明日散るのは貴様の命だ。メグルンピンク」




