あれはあの日の流れ星 11
「――何故、お前が生きている。ガルドラン」
エンゲイジアックスを構えたまま、私は少しずつ間合いを詰める。すでにバーニンが肉体を癒し、動きが戻りつつある。
「宇宙要塞は地球に落下することなく消えた。あの時、お前は何をした。あいつを――」
斧を握る手に力がこもる。心に湧き立つのは憎しみと怒りだ。
「メグルンレッドをどうした。お前……お前が殺したのか?」
ガルドランは答えなかった。どういう経緯か、あの頃とは風貌も変わっている。柄の彫刻も、つい先ほどまで封印されていた。まるで過去の事などなかったかのように。
「……今さら、あの暗闇を思い出す事になろうとはな。あんな事があったというのに、俺はまだ生き恥を晒している」
「悪いが聞きたいのはお前の感傷じゃない。レッドをどうしたんだ。あの時、お前は最後まであいつと一緒だったはずだ」
ガルドランは笑った。あの時と同じく、皮肉気に。
「変わったな、メグルンピンク。昔より、ずっと戦士らしくなった。お前があれからどんな冒険を繰り広げたのかは知らんが、メグルンレッドの技まで受け継いでいようとはな」
「私は引退していた。お前らみたいなのが性懲りもなくやってくるから、仕方なく戦いの舞台に戻っただけだ」
「仕方なく……?」
ガルドランはさも可笑しそうに聞き返した。
「嘘はよせ。お前も所詮は戦いにしか自分の価値を見出せなかっただけだろう。強者として、相手を打ち倒す。いつまでも。それこそが自分の望みだと悟ったのだろう?」
「戯言に付き合う義理はない」
地面を蹴り、ひと息で間合いを詰める。エンゲイジアックスの一撃はガルドランの剣によって防がれ、重たい鍔迫り合いへと転ずる。
「戦いたければそれでもいい。だが、お前を倒すよりも先に、年若いこいつらの命を頂かせてもらおう。俺たちの戦いに観客は不要だ」
「馴れ馴れしい事を!」
剣を弾く。追う斬撃はまたも防がれ、躱される。
ガルドランは剣をくるりと回して、言った。
「場所を改めよう。明日の朝。かつてお前たちと戦ったあの場所に来い。お前ひとりでな」
「もったいつけるな。今ここでやればいい」
「言っただろう。観客は不要だと」
黒い霧が、周囲に現れていた。霧は、すぐさまガルドランの姿を覆い隠していく。
「お前が勝てば真実を聞かせてやろう。あの日、メグルンレッドがどうなったのか。俺が勝てば、それで終わりだ。残りの四人を始末し、この地球に今度こそ終焉をもたらしてやる」
黒い霧が、消えた。同時に、ガルドランの姿もそこにはなかった。
バーニングリーンとバーニンブラック――風祭侑夏と夜見冬二は基地に戻るや否やすぐさま医務室にあるカプセルに入れられた。カプセル内はバーニンが満ち満ちているため、治癒には問題ないが、回復するには少し時間がかかる、とバン・バーニヤンは言う。
「二人は逃げた岩石怪人を追って。私はガルドランをやる」
『みさと。そんな勝手な事は許されない』
地球防衛連合会議のため、フランスにいる優一郎が、モニター越しに私を睨んだ。
「そうですよ、姫木さん。侑夏と夜見さんの戦闘データも見ましたけど、あいつ、ものすごく強い。一人で戦うなんて無茶です!」
「敵にはさらに隠し玉があるかもしれません。あいつの言う通り、一人で出向くなんて危険過ぎます」
灯火君と泉君が交互に反対する。だが、自分でもわかるくらいに、私の心は動かなかった。
「心配しないで。隠し玉なら私にもある。ガルドランが何を考えているのかわからないけど、私は絶対に負けない。それに強敵なら、組んだばかりのチームじゃ足を引っ張り合いかねない。私一人で行ったほうが確実だよ」
「っ、そんな言い方……!」
灯火君が珍しく感情を剥き出しにして私を睨んでいた。いつもの彼らしくなかった。
……いや、違う。私だ。彼らにとっての私が、いつもの私らしくない。怒りが心を支配していて、憎悪が逸る自分を正当化している。
「……ごめん、灯火君。ひどい言い方をした」
打算も何もなく、私は謝った。灯火君が驚いたような顔をした。
「あ、いや、その……」
「でも、ガルドランは私の手で倒す。これは私の手でやらなくちゃいけないから」
『――メグルンレッドのためにか? みさと』
モニターの向こうにいる優一郎が私に問う。
「今、ほかの三人はいない。優一郎、私しかいないんだ。十年前に倒しそびれた敵なら、この私が倒してやる」
言って、私は踵を返す。
『待て! みさと、暫定とはいえ君ももうバーニンジャーだ。作戦が決まるまでは勝手な行動をしてもらっては困る。最悪の場合、一時的に身柄を拘束せざるを得ないぞ』
「私がガルドランを倒したあとでなら、いくらでもそうすればいい。もっとも、私が生きて帰る保証はないけれど」
『死にに行くつもりなら、今すぐにでも拘束するぞ』
私は優一郎を振り返った。ふと、昔を思い出す。同じ戦隊だった頃も、こうやってよく揉めたものだ。
「そんなつもりはない。私は勝つよ。勝たなきゃ、あいつから話を聞けないでしょ」
『みさと――』
部屋を出る。これが大人か、と自嘲したくなる。泉君や灯火君のほうが戦隊メンバーとしてははるかにマシだろう。わかっている。優一郎、立ち止まったほうがよかったのだろう? でも今は無理だ。戦いが待っている。明日の朝までに、できる事をやっておかなければ。




