あれはあの日の流れ星 9
「みさと……さん」
バーニングリーン――風祭侑夏が私に気付いた。弾かれたように、私は動いていた。彼女に駆け寄り、震えるその手を掴む。
「侑夏――」
「あいつ……やばい……わたしたちじゃ……勝てない」
私は黙ってその手を握り返す。何かを言わなければいけないのはわかっている。だが、頭の中に浮かんだある事が離れない。
まさか。
「夜見さん!」
泉君がバーニンブラックに肩を貸していた。スーツへのダメージから、彼がどれほど戦ったのかがわかる。ブラックの反応は薄い。危険な状況だ。
「お前は……誰だ」
バーニンレッドがキャンドルブレードを構えて言った。ついさっき大量のバーニンを使ったというのに、彼のバーニンは減るどころかむしろ増え始めているようだ。驚くべき潜在能力だが、私の意識は異形の剣士へと向けられた。
あの剣は――
「ジャンク・ザ・ジャック。ただの用心棒だ。お前らの始末を仰せつかったのでな。仕事を果たさせてもらう……ところで、ロック・ロック・プリィズンを見なかったか? 岩石のような男だ」
「そいつなら戦ったあとに逃げたよ。そんな事より、よくも僕らの仲間を……!」
ジャンク・ザ・ジャックと名乗った剣士は、バーニンレッドの怒りなど塵ほども気にしていないようだった。
「あいつめ。ギャンギャンスタンプの反応はまだある……という事は余力を残しながらも逃げたな。これだから犯罪者という奴は信用ならんのだ」
「お前らの事情なんかどうだっていい! ここでお前も倒してやる!」
「――灯火君」
侑夏を横にさせ、私はバーニンレッドの背に声をかけた。立ち上がり、彼の横に立つ。
「君は侑夏をお願い。ここは私がやる」
「……でも!」
「悪いけど、これは譲れない。私には確かめる必要がある」
努めて冷静に、私は言った。
剣士の視線が、私に移った。
「お前が例のバーニンピンクか。シュレッダ・ザクギリーを倒した腕前、誉めてやろう。せいぜい楽しませてみせろ」
怪人剣士がそんな事を言った時には、私はすでに走り出していた。バーニンによる加速。レッドだけでなく私自身のバーニンも急速に増加している。
「ふん――」
エンゲイジアックスの初撃は、あっさりと異形の剣に防がれた。間髪入れずに攻撃を続ける。袈裟斬りから胴体へ。足払いを混ぜ込みながら下から上へ斬り上げる。敵の剣捌きに乱れはない。こちらの連撃の合間に、鋭い突きや斬撃を差し込んでくる。
この太刀筋――相手の油断を許さず死へと誘うこの剣。
「ふっ――」
宙返りして、私は距離を取った。異形の剣士は特に追ってくる様子もなく、こちらの出方を待つつもりのようだ。
「どうした。今のが全力ではあるまい。どうせ死ぬのだ。全てを見せてみろ。そうでなければ、こんな星に来た甲斐がない」
ああ、こいつを知っている。
私の記憶に、こいつの事が今も焼き付いている。
「……ガルドラン」
二度と口にする事はないと思っていた名前で、私は剣士を呼んだ。
「邪装騎士ガルドラン。私を覚えているか」
剣を持つ手は微動だにしなかったが、奇妙な沈黙があった。異形の剣士が纏う気配が変化していた。
「……姫木さん?」
灯火君の問いかけに、今は答える余裕がない。
「……どこでその名を知ったのか知らないが」
ジャンク・ザ・ジャックと名乗った剣士は、ようやく答えた。
「俺の名はジャンク・ザ・ジャック。バーニンピンクとやら、お前の事など知る由もない。その蒙昧な口、今すぐきけないようにしてやる」
「その剣には覚えがある。あくまでも白を切るのなら――」
私は、素早くクリスタルを三回タップした。
『バニバニバーニン!』
「ふっ――」
バーニンを満ち溢れさせながら高速移動。息もつかせぬ連続斬撃を叩き込む。剣士は相変わらず的確に、私の斬撃を素早く防ぐ。だが、私の狙いは連続攻撃じゃない。バーニンによる加速。相手の肩を蹴り、一気に跳躍。高く舞い上がる。
「銀河烈光――!」
私は叫んだ。エンゲイジアックスを振りかぶる。隕石の如きスピードで大地が迫る。敵の姿が迫る。身体に纏う超エネルギーを駆使するこの一撃は、エネルギーによって形成された流路が敵をその場に押し留め、例え躱されようとも衝撃波が追撃する。私が十年前に伝授された絶対の一太刀だ。
「ぐぅっ――!」
剣士が、迎え撃つ体勢に入った。
「秘剣・流れ星!」
斧の刃と異形の剣が激突する。発生する衝撃波が逆巻き、バーニンが音を立てて炸裂する。
土埃が、二人の姿を隠していた。
私は立ち上がる事ができなかった。着地の寸前に浴びせるこの秘剣は、絶対に相手を行動不能にさせるための攻撃だ。こちらも全力を使うために、すぐに動く事などできない。
剣士は、しばらくの間呆然と立ち尽くしていた。金属の被膜が掛かっていた異形の剣から、被膜がひび割れて落ちた。柄の部分に、女性的な顔の彫刻が露出する。
「この技……」
ジャンク・ザ・ジャックと名乗る剣士が、今度こそ動揺した声を出した。
「まさか……そんな。この技の使い手は消えたはずだ。あの宇宙の暗闇に」
剣士は、もう一度私の顔を見た。
立ち上がる。剣士に、私の姿を見せるために。忘れたとは言わせない。十年前。あの日の戦いを。戦いの末路を。
戦いの果てに散った者を――
「メグルン……ピンク」
剣士の、襤褸のようなマントがはためいた。
「まさか……お前なのか」
バーニンが再び巡っている。戦える。まだ。私は、戦える。
「思い出したようだね。私の事を」
私は、斧を相手に突きつけ、言った。
「邪装騎士ガルドラン。お前には、聞きたい事が山ほどある」




