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戦隊ピンクに復帰したけど、やっぱり引退したい  作者: 安田景壹
第一章 戦隊ピンクの戦後

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戦隊ピンクの戦後 2

 アパートの一室に戻り、手洗いうがいもそこそこに、私は冷蔵庫から缶ビールを取り出した。引退してからというもの、酒、煙草、ギャンブルと悪癖が一気に身についた。だが、別に気にする必要はない。戦隊時代に稼いだ金がまだいくらか残っているし、もう家族もいないのだ。両親は三年前、二代目宇宙魔術結社デストロゴアの侵攻が始まる少し前に亡くなった。娘が心配をかけ過ぎたせいだろう。戦隊に所属していた事はぎりぎりまで秘密にしていたし、ろくに実家にも帰らなかった。


 寝室兼個人部屋の机の上には、あの頃の物がまだ残っている。最初の戦隊で使用した〝変身〟用のブレスレット。二代目戦隊の時に相棒だった恐竜型ロボの牙の欠片。忌まわしき四代目戦隊の時の武器であるコメットガンは記念品というよりはほぼ盗品だが、責任問題にはなっていない。引退間際の戦いで紛失した扱いになっている。


 ――戦い。戦い。戦い。


 自分にはやるべき事があるのだと思い込んでいた。私のような人間はほかにいない。好き好んで、三度も戦隊に入ったような人間は。


『次のニュースです。今日正午アラタ市の薬品工場で爆発事故がありました。警察と消防がすぐに駆け付け、火はすみやかに鎮火され――』


 隣の市では物騒な事件が起こっていた。ニュースを聞くのは少しでも人間性を失わないためだ。最大の脅威が去ったあとも、事件の絶えない人の世にはうんざりするが、世間から完全に目を背けてしまったら今の自分は完全におかしくなる予感がする……。


 ピンポーン、と。


 久しく聞いていない音が鳴った。呼び鈴だ。

 ビールを少し飲む。コメットガンを取りに行くか、ちょっと考えた。ふと、スマートフォンの画面にメッセージが入っているのが見えた。この番号は誰にも教えていないが……。


『緊急事態。部屋の前にいる。開けてくれ。竜巻(たつまき)


 懐かしい名前だった。

 玄関に行く。覗き窓からドアの向こうを見た。コート姿にジュラルミンケースを手に持った男性が立っている。

今度は見知った顔だ。

 ドアを開けた。

 コート姿の男が、じっと私の顔を見た。何年ぶりだろう。確か、こいつのほうが二歳上だから今は三十一といったところか。


「……久しぶりだな。みさと」


 スーツ姿の男が、あの頃と変わらない声で言った。


「……優一郎(ゆういちろう)


 死体が喋るような声で、私は言った。


「どうしてここが?」

「一時間前に警察に電話しただろう。あそこのビルは俺の会社のビルだ。監視カメラの映像と通報の録音を照合して、君だと確信した。腕は衰えていないようだな」

「褒められても嬉しくない。警察の通報と照合したって? あんた、今何やってんの」

「総司令」


 竜巻優一郎はコートのポケットから名刺入れを取り出し、中から一枚名刺を抜いた。


「上がってもいいか。大事な話がある」


 名刺の文字をちらと見る。


《地球防衛連合爆新戦隊総司令》


 ――戦隊。



「恐れていた事態が起こってしまった」


 数年ぶりに会った元同僚は、深刻そうな顔で言った。以前はもっと快活な男だった。だが今は、実年齢よりも老けて見えるほど、くたびれた顔をしている。

 テーブルの上に、優一郎は何枚かの写真を出した。


 写っているのは、人間ではない。二メートル近い体長に太い腕、足。まるでおどろおどろしいキノコに手足が生えたかのような外見だが、ところどころ身に着けているチェーンや棘のついた腕輪が無法者の雰囲気を纏わせている。


 宇宙魔術結社アンゴルモアが作り出した地球侵略の尖兵、造魔人(ぞうまじん)や、古代獣魔帝国の邪念獣など私の記憶には数多くの怪人怪獣が残っている。だが、こいつはそのどれもと毛色が違う。強いて言えば、こいつには意思を感じる。ニュアンス的にはそう、宇宙人だ。


「外宇宙からとんでもない奴らがやってきた。《ギャンギャング》と名乗る暴虐集団だ。冥王星付近に設置されていたケルベロス牢獄を襲撃し、冷凍刑に処されていた四十八名の宇宙犯罪者を施設の一部ごと強奪した。奴らは過去四度侵略を退けた地球に挑戦するために、強奪した宇宙犯罪者を刺客として放ち、徐々に、だが確実に地球を手中に収めようとしている。我々はこれまでに四体の怪人を倒したが、敵の猛威は増すばかりだ」


 一気にまくしたてる優一郎の口調には、かつてのような緊張感があった。

 私は煙草に火を着ける。優一郎が僅かに顔をしかめたような気がしたが気にする必要はない。ここは私の家だ。


「……五度目の危機というわけね」


 紫煙を吐き出す。舞い上がる煙が妖しげに蠢いて消えていく。


「それで、私にどうしろと?」


 優一郎は床に置いていたジュラルミンケースをテーブルに置き、蓋を開けて中身を私に向けた。


姫木(ひめき)みさと。俺は新たな戦隊を創設した。過去四戦隊の記録と技術をもとにし、ともに戦う宇宙の友人の力を借りて。その名を《爆新(ばくしん)戦隊バーニンジャー》。君に、その五人目の戦士となってもらいたい」


 ジュラルミンケースの中には火の玉のように加工されたクリスタルの付いた黒いベルトのブレスレットと、金色に輝くメダルが入っていた。メダルに刻印された意匠はよくわからないが、桜の花びらのようにも見える。火の玉のようなクリスタルの中心で、ピンクの光点が小さく瞬いていた。


「バーニンチェンジャーが君を選んだ。過去のスーツと同じく、このバーニンスーツも選ばれた者しか着装できない。君をずっと探していたんだ。みさと」


 三十一歳の、年齢よりも老けた男の目に、熱いものが宿っていた。当たり前か。この男は今まさに地球の危機に直面している。あの頃、古代獣魔帝国ネプティアンと戦っていた二代目戦隊のリーダーをやっていた頃と同じく、だ。

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