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戦隊ピンクに復帰したけど、やっぱり引退したい  作者: 安田景壹
第一章 戦隊ピンクの戦後
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戦隊ピンクの戦後 14

『バーニンチェンジャーにはピースフルの下降傾向を察知する機能がある。ピースフルが下がると時空が歪むから、バーニンで移動ゲートを作れるよ。ゲートを出た近くにシュレッダがいるはずだ』


 バン・バーニヤンの言う通り、バーニンチェンジャーから作り出した移動ゲートを通って、私と灯火君は住宅街まで一瞬で移動した。映像で見たのと同じく、住宅街の家という家に太すぎるケーブルが侵入している。


「シュレッダは、どこに!」

「すぐにわかるよ」


 習慣的に、私は煙草を銜えていた。緊張が高まると吸いたくなるのは悪い癖だ。だが、考えるより早く手がライターを取り出し、煙草に火を着けている。紫煙を吸い込むと頭がすっきりする。


「あいつがいるなら、悲鳴がするはず」


 そう言った瞬間だった。絹を裂くような悲鳴が、住宅街に木霊する。


「あの家!」


 言うや、私は駆け出していた。肉体に巡るバーニンのおかげで身体が軽い。悲鳴がした家の窓を突き破っているケーブルを駆け上り、あっという間に家の中に入る。


「やめて! そのケーブルを切らないで!」


 女性の悲痛な声が聞こえる。灯火君が私に続いて家の中に入った。悲鳴を追って家の中を進むと、二階の大広間に顔を青ざめさせた三人の家族と、異形の姿があった。


「やめろー! それを切るんじゃない!」


 父親らしい男が叫ぶと、シュレッダ・ザクギリーは嘲笑を返した。


「ひっひっひっひっひ。いいぞぉ。自分の命がかかっていたら、さすがにこのケーブルが一番大事だよなァ。でも、まだわからないぞ。このケーブルを切ってもお前ら無事かもしれん。ああ、いや。やはり駄目かもしれんがなァ!」


 ケーブルの先端は天井に張り付いていて、シュレッダはそれを片腕のハサミで撫でまわしている。


「やめろー!」


 父親らしい男性がステンレスの灰皿を投げつける。シュレッダの腕に当たった灰皿は無論、掠り傷さえ与えられず、天井近くまで跳ね上がる。


「はっ! 無駄な真似を――」


 ――踏み込むなら、今だ。

 私がそう思った瞬間、一歩早く灯火君が走り出していた。


「その手を離せ、シュレッダ・ザクギリー!」


 灯火君が叫ぶ。バーニンが身体を巡る。私も床を蹴った。


「あァ? お前らは!?」


 シュレッダがこちらを振り向いた瞬間、灯火君がシュレッダの腰あたりに組み付いた。同時に、跳び上がった私の足が、シュレッダの顔に蹴りをかました。


「ぐべっ!?」


 間抜けな声を上げてシュレッダが倒れ、私は着地して落ちてきた灰皿をキャッチし、銜えていた煙草をその上で消す。


「バーニンジャー……早速お出ましというわけだなァ」


 立ち上がったシュレッダが不敵な声で言う。


「シュレッダ・ザクギリー! お前の企みもここまでだ!」


 闘志に満ちた灯火君が、覇気を漲らせながらシュレッダに対峙する。


「何をぉ? おい、バーニンジャー! わかっているのか。オレ様が当たりケーブルを切っちまえば、ここいらの家全部、まとめて吹っ飛ばせるんだぜぇ!」

「残念だけど、種は割れているんだよ。切り裂き魔さん」


 灰皿を傍の机に置きつつ、私は言った。


「種、だァ? 一体何の話を――」


 すっとぼける気か。いいだろう。こういう手合いには慣れている。


「爆弾の――」

「爆弾の話だ! いいか。その爆弾は、ケーブルを(・・・・)切っても(・・・・)爆発しない(・・・・・)!」


 私が言いかけたところで、灯火君が一気呵成の勢いで先にこちらの推論を言い切った。

 途端に、家の中に沈黙が舞い降りた。

 長い――長い沈黙だ。シュレッダは表情がわかりづらいが固まっているようだし、部屋の隅にいるこの家の住人たちも呆気に取られている。


「……え?」


 家の住人の一人がきょとんとした声を出し、


「な……」


 シュレッダがようやく驚いたように言った。


「え……合ってますよね、姫木さん?」


 灯火君がこの場の空気感の微妙さを感じ取ったようで、自信なさげに私に話を振った。やりづらい。


「何を言っている! オレ様の放送を聞いていなかったのか!? いいか、もう一度言ってやる。もし、これが当たりのケーブルだったなら」

「当たりのケーブルなんてものは存在しない」


 くどくどと同じ話をし始めたシュレッダを遮って、私は言った。


「だって、当たりのケーブルを切った時点で爆発するなら、あんたも爆発に巻き込まれるでしょ。あんたの狙いはピースフルを下げる事。なら、爆発をちらつかせるだけで十分に狙いは果たせる。話の勢いで誤魔化されるところだったわ」


 シュレッダが、わなわなと震え始めた。


「な、な、な。いや……まだだ! 本当に爆発するかどうか、今からこのケーブルで試してみたっていいんだぜぇ!?」

「やるのは勝手だけど、それよりもちょっと耳を澄ませたほうがいいんじゃない?」

「何ィ!?」


 シュレッダが声を上げた、その直後。


『――ご町内の皆様。こちらは、爆新戦隊バーニンジャーです。今、皆様の家に繋がれている爆弾のケーブルは、偽物です。切断されても、爆発しません。怪人と爆弾はバーニンジャーが対応中です。ご町内の皆様におかれましては、どうか安心して事態の収拾をお待ちください。繰り返し、ご町内の皆様にお知らせします』


 バーニングリーン――風祭侑夏の声が、住宅街に響いていた。


「何だ……この放送は……」


 シュレッダが愕然とした様子で言った。


「街の皆を不安にさせたままにするわけないでしょ」


 私と泉君が気付いた当たりのケーブルがない、という推論は出撃前にメンバー全員で共有済みだ。なので、メンバーを三手に分け直した。爆弾対応は、泉君と夜見君。シュレッダの対応は私と灯火君。バーニンマシンに乗って住宅街への放送を担当するのが風祭さんだ。


 私はバーニンチェンジャーを二回タップする。私の専用武器である斧がチェンジャーの中から飛び出した。


「その様子なら、推論は大当たりだね」


 言うや、私は勢いよく斧を振り下ろす。ブーッ! という音がどこからともなく響き渡る。やはり、爆発なんてこれっぽちも起きやしない。


「あっ――貴様ァ!」

「この真実をもっと広めないと。止めたきゃ、私を追ってくるんだね。灯火君! そっちの家族は任せた!」

「あ、はい!」


 灯火君の返事が聞こえた瞬間には、私は来た廊下を戻って素早く窓の外へと飛び出す。


「待て、バーニンジャー!!」


 シュレッダの怒号が背後から追ってくる。路上に人影はない。バーニンマシンからの放送が今も聞こえている。


「くそぉ~~! 忌々しい放送だ! 仕方ない。出でよ、アバドンズ!」


 シュレッダがそう叫ぶと、妖しげな光とともに、グレースーツの兵士たちが召喚される。


「アバドンズ! あの放送をしているバーニンジャーを始末してこい!」

「させるか、悪党。全員まとめてぶちのめしてやるよ」


 血が、熱くなっている。あれほど、今の自分には無理だと思っていたのに。目の前に敵がいて、戦う者である自分がいるという事実が、どうしようもなくこの身を滾らせる。


『自分にしかできないとわかった時、一歩目を踏み出すのは怖くなくなった。それが――』

「……途方もない冒険の始まり、か」


 向こうから赤いシャツの少年が駆けてくる。必死に。息を切らせて。彼もまた、戦うために。


「姫木さん!」


 走る少年の腕でブレスレットが煌めく。


「かかれぇー!」


 シュレッダが絶叫し、アバドンズがこちらに迫る。


「行くよ。灯火君」


 言って、私は袖口をめくり、バーニンチェンジャーを露わにする。素早くメダルを装填。クリスタルをタップ!


「「バーニンチェンジ!」」


 音声認識完了。桜色の光と、炎のような真っ赤な光が、私と灯火君の身体を包み込み、光の速さでスーツを形成する。


「バーニンレッド!」


 キャンドルブレードを構えたバーニンレッドが飛び出し、


「――バーニンピンク」


 私は斧を構え、アバドンズと激突する。

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