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戦隊ピンクに復帰したけど、やっぱり引退したい  作者: 安田景壹
第一章 戦隊ピンクの戦後
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戦隊ピンクの戦後 1

今日は調子が良かった。低空飛行めいた演出が続いたあと、堰を切ったようにじゃらじゃらと玉が出た。四五〇〇〇発。ここ四日の負けが一気にプラスだ。景品を交換するとつい数時間前まで薄っぺらかった財布が見事に膨らんでいた。だが、トータルでは結局マイナスだ。この金も月末には消えているだろう。でかい音、派手な演出、ビカビカと瞬く光で、この脳を麻痺させるために。


 日が傾きはじめていた。喫煙所のある公園までは少し遠い。私は商店街を抜け、いつも通り、運河に掛かる長い橋を渡る。

 こんなご時世にも景気よくパチンコに興じられるのは、まだ人類に生きる力が残っている証拠だろう。復興は完璧ではない。だが、此岸の街並みには建設中のビルが何棟か見えた。かたや彼岸の地面は四ヘクタールばかり抉れ、無残な土色を見せるクレーターと化している。


 異次元人の兵器が残した爪痕だ。日本にはこれと同じ規模のクレーターが、まだいくつか残っている。


 時代は変わってしまった。


 かつて、地球は巨大な悪の組織に四度狙われ、そのたびに辛くもこれを退けてきた。


 ――宇宙魔術結社アンゴルモア

 ――古代獣魔帝国ネプティアン

 ――異次元人エルス

 ――二代目宇宙魔術結社デストロゴア


 恐るべき科学力、魔力を有する大敵を四度も退けられたのは、同じく超科学や古代の力を得たたった数名の人間と、それを支える志ある人々がいたからだ。


――《戦隊》


 かつて、超人的な力を与えるスーツを身にまとい、悪の組織と戦った若者たち。勇敢で、無謀で、そしてどうであれ英雄であった彼らは、四代に渡って悪と戦い、勝利してみせた。


 最後の脅威が去ってから三年が経った。この三年間、地球は静かだ。十年前、アンゴルモアの襲来によってご破算となった宇宙進出も成功し、今では月面に基地がある。


 短期的に見れば、プラス。

 だが失ったものは決して帰ってこない。


「おねーさん」


 背後から声がした。男の声が。

 振り返れば、三人の若い男がにやけた顔で私を見ていた。鼻ピアス。攻撃的な金髪。黒革のジャケット。首元の刺青。醸し出す気配は到底堅気のものではなく、刃物でも向けられているかのようだ。

当然の事ながら、知り合いじゃない。


「何か」


 私がそう聞き返すと、男の一人がにやけた面のまま言った。


「いやーさっきは出てたね~。ずいぶん儲かったでしょ?」

「俺ら今、お金なくてさあ。ちょぉっと助けてもらえないかなあ」


 男の一人がポケットから折り畳み式のナイフを取り出し、夕日に刃を煌めかせる。

 四度も地球の平和が脅かされれば、人間の悪党も大胆になっていく。人通りのある橋の上で恐喝とは。


「とりあえずさ。あっちに人来ない場所あるから。そこでお話しよっか」


 男が自分の有利を疑わないまま、下卑た笑みを浮かべる。



 こういう事はここ三年の間に何度もあった。この街で出くわすのは初めてだが、やる事は同じだ。


「ぐげっ」


 手を痛めるのが嫌だったので、掌底を使った。ナイフをちらつかせていた男が、脳天を揺さぶられて路地裏に突っ伏す。二人目の男は後ろから首を絞めて気道を圧迫。手早く落とした。


「な、な、なんだ。なんだぁ、あんた……」


 最初に私に声をかけてきた金髪の男が、さっきまでの威勢を忘れて震えた声を上げる。まるで化け物でも見るかのような目で私を見ている。


「慣れてるんだ。こういうの。もう人を脅すのとかやめたほうがいいよ。真面目に働きな」

「はあっ!? 舐めてんじゃねーぞ、このアマ!」


 金髪の男は引きつった声で怒鳴り、即座に突っ込んできた。思ったよりも速かった。スポーツか何かでさぞ優秀だったのだろう。

 だが、かつて戦った《《連中》》ほどじゃない。

 軽くフェイントを入れ、腹部に一撃。フック気味に掌底を顔面に一撃。

 男が地面に膝を突く。私は相手の金髪を掴み、顔を近づけて言う。


「もう懲りたでしょ。これ以上はやらないであげるから……」

「ざっけんな……てめえ、戦隊か何かか? あぁっ!?」


 ――この手の輩にそれを指摘されたのは初めてだ。


「そんなんじゃない」


 手を放し、もう一度顔面に掌底を叩き込むと、金髪の男が崩れ落ちた。


「……ふう」


 息を吐き、私は懐から煙草を出して銜え、火を着ける。それからスマートフォンを取り出して、一一〇を押した。


「すみません。運河橋近くにある竜ケ崎ビルの裏に人が倒れています。三人。保護をお願いします」


 言うだけ言って、電話を切る。まあ、これで大丈夫だろう。路上喫煙がばれる前に、とっととずらかろう。

 私は立ち上がり、最後に周囲を見回す。男どもは全員が見事に失神している。やり過ぎたかもしれない。男たちは皆二十歳そこそこ、下手をすれば十代にも見える。だが、暴力で相手を屈服させようという者には、結局暴力で応えるしかないのだ。

 ……戦隊か何かか、だって?


「昔の話だよ。坊や」


 私は金髪の男を見下ろして、言った。


 ――最後の戦隊を引退してから三年が経った。

この街に私を知る者はいない。過去三度も戦隊に加わった女を知る者は、誰もいない。


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