終わりへと近づくプレリュード
「博士...!さっきの衝撃波は何なんですか...!?今までこんなことは起こったことないじゃないですか!」
「それは、みんなを集めてから話す...だから、今は走れ時間はそう長くない!」
博士の言葉には、どこか焦りが感じられた。そもそも、私達もこの力を使ってはいるもののこの力を本当に制御できているのか分かっていない。私達が使われているのか、私達が使っているのか時々分からなくなるほどだ。だからこそ、あれは危険という事だけは分かる。
「チッ...私の鬼神が怯え始めている、姫様...みんなを外に集めてくれ、ここの拠点を潰して生き埋めにする。それでも、時間稼ぎになるか分からないが死ぬよりはましだろう」
「わかりました」
そして、博士の言う通り全員が所持している構築虫を使い伝令を飛ばしていく。この構築虫は、登録者の考えを読み取りそれを記憶する。そして、仲間の構築虫に記録したものを送る事の出来る便利な魔道具だ。これも、すべて博士が作っていくれていて、どうやって私達全員分の情報をこの構築虫に記録させたのか、そしていつ作ったのか私達は誰一人として、知っている物はいない。
本当にどうやって作るんだろ...?
「送りました...!」
「よし、なら我々は外に向かうぞ」
「はい!」
博士の指示に従いながら、階段さらにかけ上がり地上へ向かう。そして、地上に着いた頃にはみんな戦闘準備を整えて集合していた。
「お嬢、説明してくれ一体何が起こったんだ?」
「それは、私から話そう」
「博士......あなたが出てくるという事は、相当なことが起こったんでしょうね」
「あぁ、みんなも気が付いているだろうが儀式は失敗に終わった」
淡々と話しを続けていく博士に誰も驚いた様な顔をするものはいない。儀式が失敗するのは、これが初めてではないからだ。
「だが、一つ例外が起きた」
「例外...ですか?」
「そうだ、お前たちの鬼神は今どんな反応をしている?」
「俺の鬼神はすごく怯えてしまってます...それが何か関係あるんですか?」
「ある...というよりここからが本番だ、とうとう来たるべき日になった」
「来たるべき日ですか...?」
「博士何ですかそれ?」
「それを今から話すんだ、敵さんも少しは待ってくれているみたいだしな...」
最後の方は声が小さくて何を言っていたか聞き取れなかったが、博士が話を始めだしたので聞き返すことはできなかった。
「そもそも、私がこの鬼神を知ったきっかけは一冊の文献が始まりだった...そこら辺の話しをしてしまうと一日はあっという間に過ぎてしまうからここは省く...一番大事なのは、その文献に何が書かれていたかだ」
「何が書かれていたんですか?」
「その文献の一部にはこう書かれていた」
『扉を開きし物へ継ぐ世界の変革がなされる時その者は現れるその者は世界を破壊し創造しなおすだろうだが、その世界に自由は存在しないあるのは絶望がかたどる地獄だけ我々では敵わない故に封印しただがいずれ目覚めるだろうその時こそ世界の終焉の鐘の音が鳴り響く時だどうか心して挑んでくれそして本当にすまない』
それが本当のことなら今この時が変革の時代と言う事になるのではないのだろうか?だが、どこにもその者の正体は語られていない...いや、語ることができなかったのか...?いずれにせよ、このままでは世界が破滅する事だけは確実なのだろう。
「いや~、久々に懐かしい話を聞けたからここまで待っていたかいがあったという物なのかな?」
「あなたがこの話に出てきた『その者』とか言うやつね?」
「あぁ、確かにその本に書かれていた『その者』っていう物は僕の事だよ...?でも、何も僕一人っていうわけでもない」
「どういうことかしら?」
「そのままの意味さ...!僕たちは種族だ!なら、僕以外にも存在しているのは明白だよ」
「......」
「僕たちは君たちの武器に封印されているなまくらじゃない」
私が命がけで封印してきた鬼神をなまくらと評した彼...彼女とも呼べるものは、中を舞い言葉を紡いでいく。
「僕たち鬼神という肩書きは君たち人間が付けた名称で本当の名前じゃない...僕たちの本来の種族名は吸血鬼だ」
「き、吸血鬼だと...!?」
「簡単に君たちの言葉で言うなら、そこに収まっているなまくらが平民...僕たちみたいな人間に直接憑依して顕現することができる吸血鬼が爵位を持った貴族と言うわけさ」
吸血鬼……文献で読んだことぐらいしかないが、かつてこの世界の統一を成し遂げた唯一の種族として語り継がれている。そして突如として、この世界から姿を消した...これが私の知っている吸血鬼の情報だった。その吸血鬼が今私達の目の前に存在している。
「これは...相当まずいことになったわね博士......」
「あぁ、あやつのいう事が本当なら...我々など一瞬で葬られるだろうよ......」
額から冷や汗を垂らしながら、吸血鬼を見つめている博士はどこか邪悪な微笑みを浮かる。
「世界はとうとう歯車を動かすようだな......姫様覚悟してください。これから世界を巻き込んだ戦争がはじまります」
ここから世界は決断させられることになる。抗うか、降伏するか......否、私達に選択肢は与えられない。あるのは、抹殺のみ、なら抗うほかないだろう。
「さぁ、始めようか...!過去千年間続いた終末戦争の続きを...!千年間眠っている同胞を起こし、再びこの世界を我らの手の中に手に入れるために。我々を裏切ったあの方へ報復するために...!今、戦争の火蓋が切って落とされた...!」
吸血鬼の周囲に黒いもや模様が発生しはじめ、吸血鬼を包んでいく。
「僕の名前は、バエル...君たちに知恵を与える存在だ...そう絶望という名の知恵をね」
黒いもやが徐々に晴れだしてくる。次の瞬間、バエルと名乗った吸血鬼の服装が変わっていた。黒を基調とした、漆黒の衣装だ。禍々しさが漂いながらも、バエルは続けていく。
「時は満ちた...始めよう千年越しの第二ラウンドを!失望させないでくれよ?」