鬼神《ホルダー》
「ん...ここは...?」
さっきまで、研究室...?みたいなところにいたはずなんだけど、この場所は、白い空間が地平線まで広がっているみたいだ。
「ここは、僕しかいないのかな...?おーい...!誰かいないの?」
『ふぁ~...なんだよぉ~僕が気持ちよく寝ていたのに、起こしに来た奴無礼な奴は......』
「き、君は誰なの...?」
『僕かい...?そうだねぇ...『鬼神』とでも、呼んでおいてくれよ』
鬼神と名乗った少年か、少女分からない者は、何か僕たちとは違う異質なものを感じる。
「鬼神...?って何ですか?」
『まさか、鬼神を知らないの...!?』
「はい...」
『あはははははは、これは傑作だね...!鬼神のことも分かっていないのに、この儀式を受けるなんてよっぽどのバカか、死にたがりだよ...う~ん、それにしても昔よりもだいぶ力が落ちているような気がするけど...君、僕に何かした?』
「っ...!?」
殺気の籠った声に、何も答えることができなかった。いや、答える権利を与えられなかったと言った方がいいのだろうか。
『ふ~ん、まぁいいや...君ぐらいの相手ならどうとでも対処できるだろうし』
確かに、鬼神なら、俺のことなんか片手でひねり潰せるだろう。そんな迫力が鬼神にはある。だが、口には出してはならない。鬼神の機嫌を損ねれば、間違いなく俺は死んでしまうから。
『何から教えた方がいいのかなぁ~...まぁまず最初は僕たち『鬼神』のことから知ってもらう方がいいよね~』
「はい...!」
『いい返事だね...!そうゆうの嫌いじゃないよ、僕』
この選択は間違っていなかった様だ。相手は俺のことに好感を持っている。なら、この好感を維持していけば殺されることはないだろう。
『まず、僕たち『鬼神』というのはね、簡単に言うと君たちの欲望なんだ...!』
「欲望...」
『そう!欲望だ...!欲望こそが、人を強くし僕たちも強くしてくれる唯一の物だ!』
手を天に掲げ、高らかに放ったその言葉はどこか危うく感じる物があった。それはなぜだか分らない。だが、一つ感じることは、この『鬼神』に欲望に飲み込まれてはいけないということだけだった。
『それに対して...君の欲望は小さすぎる......はぁ~そんな欲望じゃ何もできないじゃないか』
「一体何を言って......」
『駄目だ駄目だ駄目だ...そんな欲望じゃ......』
「......」
『鬼神』には、俺の声は一切届いていない...と言うよりも、聞く耳を持っていない。今の状態では、まともに会話することさへ困難なのは明白だ。しかし、手段が思いつかない。
『あぁ...そうか、これは僕に試練を与えているんだね...!』
「っ!?」
今の一言でこの空間の雰囲気が一気に様変わりした。突如『鬼神』は拘束され身動きがとれなくなっていた。
『あぁ、これか...僕を縛っていた物は...こんな物で拘束されると思われている様じゃ困るんだよねぇ、僕たちはそこまで甘く見られているみたいで...嫌なんだよ』
「えっ...!?」
『鬼神』は無理矢理拘束を破り、こちらに詰め寄って来る。
「く、来るな...」
『君じゃ駄目だ...だから、僕が君に成り代わりこの世界を破壊へと導いて行こうじゃないか...!』
一歩...『鬼神』が歩を進めると、景色が白から、黒へと変わって行く。
「俺は俺だ...!お前じゃない!」
『言うねぇ...!なら、僕が後三歩でそちらに行くとしよう。それで、君が意識を保てると言うのなら、僕は君に従うとすることにする...ただし、その間に意識を失うのであれば僕が君の体を使わせてもらう』
一歩...意識が刈り取られそうになり、地面に膝をつけてしまう。
「くっ...!」
『その調子で大丈夫かい...?』
二歩...さらに意識を刈り取られ、立っていることさへ困難な状態へとなる。
『やはり、君は駄目みたいだね...欲望がなさ過ぎる、それで僕らをコントロールしようとしているのが笑えるよ』
三歩...ついに、意識を刈り取られ気を失い地面に倒れてしまう。
『......僕の見込み違いだったか...まぁそれならそれで、僕が外界に干渉できる様になるからいいんだけどね...!さぁ、久々の外界だ...存分に楽しもうか!』