ブロンジラボ
術式...それは、禁忌の力と言い換えてもいいだろう。ただ、この力には、自身の魔力と比例した力を手に入れるという、少し特殊な発現方法だ。まぁ、魔力を犠牲に手に入れる力なのだから、必然とそうなっていてもおかしくはないが...
「覚悟は決まっているのね?なら、話が早いわ...今から案内するところに、魔力を術式に変換する装置があるわ...時間も惜しいし、今日そこで術式の変換もやってしまいましょうか?」
「はい!それで大丈夫です」
誘ったのは私なんだけど、私個人の考えとしては...こんなにも幼い子供を戦場には連れて行きたくはない。だが今は、戦力が乏しくない今、猫の手も借りたいという状況だった。
そんな状況になっていることにも頭を抱えているのだが、それよりも戦力のなさに一番頭をかかけていた。そこに、襲われている一人の少年がいれば、当然誘いたくもなるだろう。なにせ月光薔薇騎士団は、元はスラム街にいた者たちが大半だ。
だからこそ、私はみんなの期待にこたえなくてはならない。だけど、この子はまだ戻れる...まだ、こちらに踏み込み切れていないなら、痛い目を見ずに済む。だから、引き返すならここが最後だ。
「わかったわ、なら私について来てくれる?」
「はい!」
この子は今から、人生で最大の痛みを伴う事になるだろう。想像を絶する苦痛だ...もうやめてと、懇願するかもしれない。だが、その願いは虚空へと消えていくのだろう。ことが始まれば、もう誰にも止めることはできなず、その段階で死んでしまうかもしれない。
でも、その結果を受け入れなければ、ならない。どちらせよ、ここを乗り越えなければ、先はないだろう。
「さぁ、ついたわよ!ここが、術式の継承を行う場所、魔力変換研究所よ!」
「わぁ、機械がたくさんありますね?」
「......」
それはそうだろう。ここはそういう場所なんだから......
「あなたは今からここで、術式の継承を行ってもらうわ」
「そうなんですね...」
「どうしたの?少し怖気づいちゃった?」
「はい、少しだけ......」
彼の言っていることも理解できる。何回も来たことのある私だって、この異様な光景をまだ見慣れていない...いや、慣れることはないだろう。
「まぁ...そういう反応になるのは私も分かるよ、でもこの光景を目に焼き付けておくべきだよ...」
「それって、どういう......」
「さ、博士を探しましょう!」
もともとこのラボは、博士と呼ばれている人物の為だけに作られた物と言っても過言ではない。最初はこれほどまでに異様な光景は広がっておらず、ごく普通の研究室だった。そこに色々な物が持ち込まれたり、実験の為に使っていた所このような、異様な光景になってしまったのだ。
どんな光景か、端的に言えば...言葉を濁して言えば、ゴミ屋敷だ。配線がいくつも、出ており歩く場所は愚か、地面が見えている箇所はないに等しい。
「博士、いる~?新しい子を連れてきたのだけど~!」
「何よもう、うるさいなぁ~...今君の真下にいるじゃないか~」
声の主は私の真下から聞こえてきた。そこには、配線に絡まりながら、寝ている子供...博士がそこにいた。
「ほら~、新人の子がビックリしちゃってるから、配線の中で寝るのはやめてください!」
「そう言われても...この配線の中ものすごく気持ちいいんだもの、やめられないよ~」
「はぁ~...もういいですから、本題に入ってもいいですか?」
「あぁ、そうか...術式の転換に来たのか?」
「えぇ、そうですよ...だから早く出てきてください!」
「わかったよ、君は、僕の母親か何かかな?」
「母親代理です!」
「うへ~」
項垂れながら、配線の中から出てきたのは...素っ裸の幼女だった。
「なっ!?」
すぐさま、ビクトリアの目を隠しはしたが、今の一瞬で見えてしまっただろうか?
「エ...エ、エーテルさん...今のって...」
数秒間に合わなかったらしい......
「ハァ~...博士、先に服を着てもらってもいいですか?」
「もう、着たぞ!」
「そこだけは、早いんですから......」
目を隠していた手をどけ、ようやく本題に進むことのできる状態......にはなっていないが、まぁ大丈夫だろう。
「あれれ?少年、顔が赤いじゃないか~、私の裸なんか見て興奮でもしちゃったのかな~?」
ニヤニヤしながら、ビクトリアに詰め寄る博士に対して...オドオドしながら、言葉を発せないでいるビクトリア...このままだと、先に進みそうにないので無理やり話を進めることにした。
「博士!まず、彼に自己紹介をお願いしていいですか?」
「あ、あぁ...そう...だな!」
本当にちゃんとしてほしい。ただでさえ、ビクトリアをここに連れてきた事に負い目を感じているんだ...それ以上の負担を背負わせないでほしい。
「心して聞くがいい!私の名前は、ビルツ=メイストン!天才科学者にして、術式転換を開発した張本人である!こんな身なりだが、年は......秘密だ」
「もうすぐで、60です」
「何で!?」
「博士がもったいぶるからです!その装置を作り上げるために人生の8割をささげた人ですから」
「そう簡単に暴露するものじゃないと思うんだけど~」
こんな性格をしているせいか、中々60歳のおばばとは思えないだろう。年齢を始めて聞いた人は、みんな固まっていた。
「そ...そうなんですね、よろしくお願いします」
「なんとも、素直でいい子なんだ!でも、それ以上に馬鹿らしい......こっから先は、後戻りできないぞ?それでも、術式の転換...魔力を術式に書き換えるのか?」
「はい!僕は、家族を守れるだけの力が欲しい!その先に、何が待っていようと後悔はしない!」