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2章

2話


 わたしの名前は愛菜雫(あいなしずく)

 15才の高校1年生。


 季節は春。

 時刻は……17時30分。

 放課後まであと30分しか残っていない。


 ……とても緊張している。


 実はわたしには好きな人がいるの。

 その人はとてもかっこよくてやさしい。


 名前は……真司誠(しんじまこと)くん。

 でもわたしは単に先輩とそう呼んでいる。


 先輩はわたしにとって控えめに言っても特別な存在。

 彼は覚えていないのかもしれないとは思うけど、わたしはまだはっきりと覚えている。

 

 それはわたしがまだ、中3だった頃のこと。

 いつものように登校するには電車に乗った。

 しかしあの日はなぜかいつもより電車が混んでて、不幸なことに変なおじさんの隣に立てざるを得なかった。


 そして…………まぁ、そこまで言う必要がないと思う。

 正直に言って、あの恐怖感はもう思い出したくないだけだ。

 幸いなことに先輩が同じ電車に乗ってて、あの変なおじさんがそれ以上の変なことをする前に止めてくれた。


 おそらくその瞬間で、わたしは先輩のことを好きになったんだよね。

 だって当時のわたしは物静かであまり目立っていなかったじゃん?

 吹き込んでくれた、って言っても過言ではないでしょう。

 髪は染める前に黒で、デカい黒縁メガネまでかけていた。

 その日、勇敢な先輩を見ていたとき、不可抗力でブッサイクなわたしも変わりたいと思った。

 だから高校進学とほぼ同時にイメージチェンジをすることにしたんだ。

 

 髪を桃色にして、コンタクトまで入れた。

 そうすることによって先輩はわたしのことを意識するでしょうね、と思っていたから。

 

 まあ、結果はまったくわたしの存在に気づいていないんだけど、強いて言うならそれはわたしも悪かったのかもしれない。

 その瞬間、わたしは決めた。

 率先して真司先輩に告る。

 ようやく先輩にわたしのほんとの気持ちを伝える勇気ができた。

 

 そして気が変わる前に念の為に今朝、昨日の夜に書いたラブレターを先輩の靴箱に入れておいた。

 ほんとはいま先輩はどんな顔をしているのか超気になっているけど、我慢我慢。

 

 放課後まであと15分しか残っていないし。

 でもやはり気になりすぎて、もうヤバい。

 残りの授業を聞き流してぼうっとしてしまうほどに。


 ◇


 そして17時57分。

 

 学校の終わりを告げるチャイムが鳴ると、教室の空気が一気に弛緩する。

 止まっていた時が動き出すかのように、同級生のみんなが各々の席から立ち上がり、帰る支度をせっせとこなしていく。


 ……よし。

 わたしも行こうか。

 と、そう思ってカバンを手に取って立ち上がると、聞きなれた声が耳元で聞こえてくる。


「ねぇ、雫ちゃん。このあとあたしたちカラオケ行くんだけど、雫ちゃんも来るよね?」


 言ったのは、わたしの幼なじみである白雪渚(しらゆきなぎさ)ちゃん。

 でもでも、わたしはナギちゃんとそう呼ぶの。

 ナギちゃんの隣にいるのは、幼なじみのもう1人の藤原楓(ふじわらかえで)ちゃんだった。

 

 明るく煌びやかな見た目をしたナギちゃんとは対照的に、楓ちゃんはいつもの地味目でぼーっとした雰囲気を纏っていたが、2人ともは決して悪い人ではない。

 

 実はわたしたち3人は同じ幼稚園に通ってたうえに中学も一緒だった。

 信じられないとは思うけど、おまけに家だってそれほど離れなくて、数分道なりに行けば簡単に着けられる。

 そんな不思議な縁でわたしたちは結ばれているの。

 

 もし、別の日だったらおそらく行ったのかもしれないが、今日大事なことがあるので、ごめん、ナギちゃん、楓ちゃん。断らせていただきます。


「あ……えっとぉ。ちょっとこのあととても大事な用事があるので…………」


 と、断ろうとしたが、横から口を挟むヤツが言った。

 思わずわたしは引いてしまった。


「あ、それいいじゃんナギっち。オレ達も行っていい?」


 コイツは春原高雄(すのはらたかお)

 わたしの同級生の1人で、いつもわたしたちのことをいやらしい目で見てくるヤツ。

 下心バレバレだよ。

 正直わたしはコイツが苦手なんだわー。

 騒がしくて、行儀も悪くて……サッカー部のエースだからって、 その振る舞いはないでしょう。

 そう、心の中では思っていたけど、内心は決しておくびにもださない。

 ……けれどわたしとは違ってナギちゃんは春原さんの声を聞いていたら、わたしに見せた明るい笑顔がどこぞへ消えて、しかめっ面になった。

 ナギちゃんも楓ちゃんもあまり春原さんのことが好きじゃない。

 わたしみたいに春原さんの本性に感づいたとは思うけど、どうでしょうね。


 ナギちゃんは振り向くこともせずに、


「まあ、もし雫ちゃんは行かないのなら……しかたない。また別の日で行こうよ」


 そう、わたしに言ってきた。


 ありがとう、ナギちゃん。

 命の恩人よ。


「そうか? まあ、しかたねぇ」


 と、春原はつまらなさそうな顔をしながら言う。

 良かった。春原も興味を失ったみたい。

 わたし、とてもうれしい。


「ということで、オレはここで。おい、オマエらゲーセンに行こうぜゲーセン」

「女子とカラオケ行かないの?」

「また今度でって」


 いや、誰がまた今度って言ったヤツは?

 まあ、どうでもいいけど。

 そんなことより、先輩はわたしのことを待っている。

 ふと、壁にかかっている時計を一瞥すると、時刻は18時5分…………ってヤバい!

 早く行かないと!

 

「ごめん、わたしちょっと用事が……」

「ううん、いいの、雫ちゃん。もうわかってるから」

「………………がんばって」


 ナギちゃんと楓ちゃんに謝るが、2人ともはあんまり気にしない素振りで返してくれた。

 ほんとにほんとにありがとう。


 そう、頭の中で言って教室を飛び出す。


 ……………………えっと。屋上はどっちの方向だったっけ?

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