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わたしのこと

作者: (仮)

今度こそちゃんと、今度こそ、ってずっと先延ばしにしてきた気がする。

自分の気持ちに顔を背けて、気付かないふりをしてきた気がする。


わたしの気持ちをすべて手に取るように見透かすその目が嫌いだ。

いつも一枚上手で余裕のあるような表情が嫌いだ。

すべてをわかっていても、気付かないふりをしているのが嫌いだ。


嫌い、なはず。

なのに、気づいたら目で追っていて、ふと考えてしまっていて。

わたしの頭はもう、それ以外のことを考えられなくなっていて。

わたしがどれだけ拒んでも、知らないところで気付かないうちに、日常に入りこんでくる。

もう消せないところまで、きっと迫ってきている。


そういう、言うことを聞かない、わたしの心と頭がいちばん嫌いだ。


わたしは、きっと何もかもわかっている。

それを行動に移すべきだとも思う。

何度も何度も、そう思っている。

いつだって頭は至って冷静なのに、わたしの心はやっぱり言うことを聞かない。

知らないふりをして、何もなかったかのように過ごしている。


今度こそほんとうに、言葉にしなくちゃいけないと思う。

潮時なんだと思う。

わたしがわたしでなくなっていく前に、わたしを忘れてしまう前に、すべてを終わらせるべきなんだと、心から思う。

なのに、思っているのと、本当に行動に移すのでは、全くの別物で。


わたしの気持ちを、だった、と過去形にしたらそれはきっと間違いで。

でも、現在進行形にしたら、わたしは変われないままで。

それを割り切って、すべてに終止符を打って、元に戻るべきだ。

お互いがお互いを知らなかったときのように、ふつうの生活をするべきだ。

そしたらきっと、わたしはわたしであれる気がする。

わたしは、そうならなきゃいけない。

そう、言い聞かせるしかない。


思い出はぜんぶ、頭の中のもの。

忘れてしまえば、何もかもなかったことになる。

そう思える時がやってくる。

きっとそれは、避けられない、運命なのだから。


だから。

「さようなら」の一言で何もかもをわすれて、終わらせられるなら、はやく、すべてを無かったことにしたい。

後悔の大きさが、すこしでも小さいうちに。

わたしの中のほんの小さな理性が、まだ息をしているうちに。

その存在を、何もなかったかのように忘れられるうちに。



ごめんね、さよなら。

たったそれだけだった。それしか言わなかった。言えなかった。

なんで、って虚を突かれたような顔をして。

その顔から、いつもみたいにわたしを心配する優しさが消えていなくて。

ここで引き返さないと。何もなかったことにしないと。

そうしないとほんとうにわたしは。

ダメだって頭でわかっていても、わたしの心はまた置いてけぼりで。

ああ、まだわたしは、

その先は、ただ感じるだけで、言葉にはしなかった。

ただ一言、なんでもない、だけを口にして。


わたしはまた、タイミングを逃した。

さよならと言ったときの何か言いたげな顔が、わたしの頭にへばりついて離れない。

そんな顔しないで。

あのとき、すぐにでも突き放してほしかった。

あっそ、興味なんかないよ、どうでもいいよ、って、すこしの優しさも見せずにさよならを言ってほしかった。

優しいから、きっとそんなこと一生できないんだろうな。

その優しさにまだもうすこし甘えていようと思ったわたしは、

何もかもをわかっていて、割り切れているようで、なんにも変われていない。


悔しい。

わたしばかりがずっと考えていて。

その澄んだ瞳に、わたしは映っていないのに。

今もきっとわたしの知らないどこかで、わたしの知らない誰かと、幸せな時間を過ごしているはずなのに。


わたしのことをなんとも思っていないのなら、そんなに優しくしないで。

わたしのことなんか、突き放して。

忘れたいから、なかったことにしたいから。

もうそんな期待を抱きたくないから。

とっくに、わたしの気持ちに気付いているんでしょ。

気付いていて、知らないふりをしているんでしょ。

その方が、楽だから。

誰も傷付かずに済むから。

ぜんぶただの迷惑だって、そんなのわかってる。

何かあるとすぐ勘違いして、舞い上がって、ぜんぶぜんぶ自分勝手だ。

自分さえ幸せでいられればいいって、心のどこかでそんなふうに思ってしまっているのかもしれない。

だけどわたしはわたしなりに、幸せを願っているつもりだ。

誰よりもいちばんに、幸せであってほしい。

たとえその相手がわたしじゃなくても。

そういつだって、思っている。


笑いあう相手がわたしじゃなくても、別にいい。

それで幸せなら、って割り切ってきたけど、そんな思いもそろそろ限界を迎えて。

幸せだけを願っていたはずなのに、わたしはいつしか、叶うはずのないわたし自身の幸せを願いはじめてしまった。

そんな欲張りなわたしは、きっとわるいこ。

でも、ほんのすこしだけ、もしかしたら、って思ってもいて。

わたしにだって、可能性がゼロなわけじゃない。

そんな夢みたいなことを言って、ほんとうに寝言は寝て言え、だと思うけど。

すこしくらい夢を見てもバチは当たらないんじゃないかって、思ってはいる。


いつになっても、わたしたちの関係はきっと変わらないんだろうと、わかっている。

どこまで伸ばしても交わることのできない平行線みたいに、ずっとおなじ距離を保ったままだ。

それは変わらずにいられるということでもあり、進展していけないということでもある。

まさに一長一短なのだ。

わたしがもっとはやく生まれていれば、どこか違う場所で、違う関係で出会えていたのかな。

なんて、生まれた時点でもう変えることのできない事実を変えようとしたりして。

もう、現実さえもまともに見られなくなっているのかもしれない。

今度こそほんとうにきっと、わたしは後戻りのできないところまで踏みこんでしまった。



わたしは、20回目の夏を迎えた。

思い出に蓋をして、何もなかったことにして、過ごしてきた。

蓋をした、と言い聞かせて。

結局、その関係がなくなってしまえば、何もなかったことになるのだ。

また同じように、出会う前のように。

繰り返し、同じことをするだけ。作業のように。

ただ元の日常に、ただ戻るだけ。

戻るだけなのに、一度変わってしまったものはそう簡単には元には戻せない。

シールだって、貼るのは簡単なのに、剥がすと元のように綺麗にはならない。

傷だって、つけるのは簡単なのに、かさぶたを剥がせば、また血が出る。治すのに、時間がかかる。

そういう運命なのだ。わたしたちは、きっと。

傷を治すのには、じっと待っていなくちゃいけない。

治ったって、傷が何もなかったように消えない時だってある。

それでもわたしは、わたしの心と頭がその存在を忘れるのを、ただ待つのだ。

なにもなかったと、ほんとうに、割り切れるようになるまで。


きれいな愛を、信じていたい。

そういうふうに、愛せるようになりたい。


頭が上手くまわらなくて、へんな位置に句読点が付いて。

言葉にできなくて、くるしい。

気持ちを伝えようって、思っていたのに。

なのに、いつも言えなくて。

今だ、今言うべきだ、ってわかってても。

まだわたしは、気持ちを確かめずにいたかった。

すべての事実に顔を背けて、まだなにも考えずに変わらない気持ちでいたかった。

そういう期待が、それだけがわたしの心を生かしていた。


わたしは、なにもしなかった。できなかった。

終わっていく現実に知らないふりをして、ただ日々を過ごしていた。

結局さいごまで、気持ちを伝えられないまま。

でもそれでよかったんだと思う。

言葉にしてしまったら、なにもかもがなくなってしまうから。

あの、ただでさえ細い糸のような関係が、ぷつんと切れてしまうのが怖かったから。

わたしは、すべてが0になってしまうよりも、1の関係をずっと続けていたかった。

どれだけ苦しくても。

いっそのことなくなってしまえば、こんなにつらい思いは、

そんなことを考えては、頭から振り払った。

あの気持ちを持てていたときだけが、わたしがわたしであれたような気がしていたから。



久々にみんなで集まろう。

携帯に届いた一通のメッセージはわたしにとってはすごく憂鬱で、それでいてどこか嬉しくもあった気がする。

今度こそ、もしかしたら。

そんなあるわけないことを考えて、また勝手に傷付く。

頭ではわかっているのに、わたしの心はどうにもその期待を殺すことができなかった。


ー ひさしぶり。

そう微笑んだ顔は、時を止めたみたいにあのときのままで。

ー 元気?ちゃんと早寝早起きしてる?仕事は上手くいってる?なんか悩んでない?

そんなことを聞かないで。またそんなふうに、優しくしないで。

終わったんだから。終わらせたんだから。

ー もうわたしも子どもじゃないんですよ。

ー そうだね、ごめんね。

そう言って笑ったときふと目に入った、左の薬指に光るものを見つめて、呟いた。

ー それ、

動揺なのかなんなのかわからない、わたしを蝕む感情のせいで目線が泳いで、喉が急激に渇く。うまく言葉に、できない。

ー 結婚、したんだ。

思っていた通りの返答なのに、何度も想像したことなのに、なんでこんなに苦しくなるんだろう。

ー そっか、おめでとう、ございます。

口が回らないせいで敬語すらうまくつかえなくて。

ー うん。ありがとう。

幸せそうに笑うその瞳の奥に、やっぱりわたしは映っていない。


ー あ、連絡先。教えてよ。

すごくすごくながく感じた沈黙を破って、そう言われた。

結婚、したくせに。わたしになんか、興味ないくせに。

だけど断れないのは、わたしがまだ信じているから。

また元に戻れるかもしれないって、信じているから。

ー 今度また、連絡する。予定空いてる日、分かったら教えてほしい。

なんでそんなこと、今更になって言うの。

わたしたちはとっくに終わってるのに。

わたしの知らない誰かのものに、なったのに。

またそうやって、わたしを苦しめるの。

そんなわたしの心の叫びは、いつも届かないままだ。


気持ちを言葉にしてしまえば、何か変わるだろうか。

わたしのことを、すこしでも考えてくれるようになるだろうか。

それとも、壊れてしまうだろうか。

音も立てずに、ただすこしずつ、すこしずつ。

消えてしまうのは、やっぱり怖い。

いつだってわたしのそばにいてほしい。

だけど、もうそんな願いは一生叶わないのだ。

他でもなくその存在が、だれかのものに、なってしまっていたから。


ー 今、幸せですか。

ー 幸せだよ。

ー そう、ですよね、変なこと聞いてごめんなさい。

ー 幸せじゃないの?

ー まあ、

ー 、何かあったの?

誰のせいだと思ってるんですか。わたしは誰のせいで、

それを口に出すのは、やっぱり憚られた。


なんにもできないまま、言えないまま、だったけど、

わたしたちは月に一度、どこかで会うのが決まりごとになっていた。

なんでそんなふうに、昔みたいに優しくしてくれるのか。

わたしが今でも思っていること、知ってて、またわたしに優しくして。

ずるい。

わたしばっかりが結局、考えている。

どうすれば、消せるのか。過去からも、今からも。

わたしの記憶からも。


別々の人生。

元々そうだったんだから、ただ元に戻っただけ。

出会ったことが、決まっていた運命で、それでいて奇跡なのだ。

はやくこの関係を、終わらせてしまいたい。

終わらせてしまい、たかった。

ただの都合のいい道具なのかもしれない。

わたしを弄んでいるだけなのかもしれない。

なのに、きっとそうなのに、わたしの心は、いつだってその存在を欲している。

それなしじゃ、生きられないくらいに。

またあのときみたいに、考えている。無意識のうちに。


またわたしは、同じことを繰り返すしかないのだろうか。

それしか、わたしにはできないのだろうか。

悔しい。その感情ばかりがわたしの頭をめぐる。

悔しいのに。ダメだってわかってるのに。

そばにいたいと、思ってしまう。

ダメだ、ダメだって心がどれだけ止めても。

わたしはいつまで経っても、変われないまま。

わたしだけが、過去に残されたまま。

なのに、その存在をどこかで、根拠もなく信じている。


もうやめよう。なんとも思われていないから。

ただ遊ばれているだけだから。

いつもあとすこし、あと一回、もう一回、ってキリがない。

だけど、やっぱり怖かった。

やっと掴み直した関係が壊れるのが怖くて、出しかけた一歩を踏み出せないままだった。

今度こそちゃんと。

何度言ったかわからないその言葉が、再びわたしの頭を巡った。



ー わたしのこと、どう思ってるんですか?

なんでそんなこと聞くの、って顔だけが、今になっても変わらずにそこにいた。

あからさまに、戸惑った顔をしていた。

わたしなら、このまま何も言わずにそばにいると思った?

わたしなら、認めてくれると思った?

わたしなら、すこしくらい傷をつけても構わないと思った?

馬鹿にしないで。

そのときわたしは、確かにそう思っていたのに。

思っていた、はず、なのに、発せられたその一言ですべての感情がどこかに吹き飛んでしまった。

ー 一緒にいてほしい。

ー どういうことですか。

ー 結婚したんじゃないんですか。

もうあの頃のわたしじゃない。戻らない。心に決めたから。

ー わたしもう、振り回されたくないです。

ー そうじゃない。


好きなんだよ。


ー だから、一緒にいてほしい。それじゃダメ?

意味が、まるでわからない。

わたしのことをあれだけ期待させておいて、突き落として、また引っ張り上げて。

そういうところが、気に食わない。

だけどやっぱり、好きなんだと思う。

ー あの時からずっと、好きだった。

ー また会いたいって思ってた。

ー なのに結婚したんですね。

ー でも、もう別れた。

ー 今日こそちゃんと気持ち伝えようって思ったから、別れてきた。

その日、確かに指輪は、嵌められていなかった。

なんて馬鹿なんだろう。

夫婦って、そう簡単に崩せる関係じゃない。

ー ずるいよ、

やっとの思いで口にできたのは、それだけだった。



わたしも好き。

ずっと好き。


それを言葉になんかしなくても、確かにそのときわたしたちは、きっとどこかで通じ合っていた。



今度こそちゃんと、わたしに「あなた」という存在が書き込まれたように思えた。

あんまり共感してもらえない話なのかな、と思います。

思いつきで書いたようなものなのであまり上手くまとめられませんでしたが、ここまで拝読頂きありがとうございました。

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