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「――ここが四人目のアボット子爵令嬢の襲われた犯行現場だ」
そこは王都でも夜間は人通りの少ない住宅地の近い場所だった。他三人の犯行現場となった場所も巡ったが、同じように夜間人通りは少ないが、どこもそこまで奥まった場所や隠れた場所ではなく普段普通に人の往来がある道端で行われた犯行だった。そして全員、それぞれ夜会の開催場所から自宅までの道筋だった。
しかし来てみてわかった事だが、どこも周囲に高い建物が一軒はあり、その最上階からよく見える見渡しのよい通りであった。
「……犯人は毎回スポットを決めて張り込んでいるようですね」
「ああ。ビルの上で張り込んでターゲットになる相手を見つけているんだろうな」
流石気づいたか、とカイルは言う。
「だとしても、次に犯行を起こす場所はわかりません。次回の夜会の場所と出席者を全て調べたとして、該当箇所に全て治安部隊を配員させる事も現実的ではないですし」
随分熱心に前のめりだな、とカイルは見下ろす先に細目で彼女を見て思う。ただの伯爵家の令嬢にしては、事件についての姿勢やのめり方が尋常じゃない。カイルはその姿に危うさを感じた。
再び熟考するローレンスに彼はこう口を開く。
「しかし今回合同捜査であれば、治安部隊による囲いとギフトを効率的に使って追い詰めるのがベスト。ギフトに対しては向こうも前回の事からすぐに対策をしてくる。しかし顔が割れている自分が出てしまえばすぐにバレてしまう。だろう。ローレンス」
いつ名前で呼ぶ事を許したとキッとカイルを見て思うも、彼女は答える。
「ええ、でしょうね」
「他のギフト持ちを頼めば対策をしようもできるが……協力をあぐねるには組織的に許可がいるだろう」
ファクルタースは国家機密である秘密組織。その存在が公になるような行動はご法度であり、あまり大きくは動きたくはないだろう。
「一応掛け合ってみます。恐らくいい返事はもらえないかと思いますが……」
「頼んだ。こちらも他の計画を考える」
流石治安捜査局局長だけあり、やはり心強い。頼りがいがありその捜査手腕も長けている。
その後、遠慮するローレンスは結局カイルに紳士らしく伯爵家まで丁重に送り届けられ、二人は別れた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
伯爵家の自室の机の上で、ローレンスは事件について自分で纏めた紙を広げて考えていた。
ファクルタースからギフト持ちをこちらに送る事を頼めないかと言っていた件だったが、他のメンバーもそれぞれ任務についている事もあり、やはり組織から人員を確保してくるのは難しいとの回答がきた。あくまでこの件に対してはファクルタース側からはローレンスのみで解決しろという意向だ。この件はファクルタースではなく、ローレンス個人と治安部隊の合同捜査という形を取りたいらしい。こちらの立場上致し方ない。
どうしたものかと、はあと息を吐いた時に部屋の外から侍女が声をかけた。
「お嬢様、お手紙が届いております」
「ありがとう」
ドアをノックして入ってきた侍女が手にしていた青色の手紙を受け取る。随分と上質紙の封筒だ。
「舞踏会の招待状……?」
しかし裏返しその差出人を見て思わず目を疑う。主催はエドワーズ公爵家だったのだ。
犯行が行われるのが夜会なら、こちらから誘い込んで先手必勝と言う事だろうか。それに自ら主催するのであれば、参加者をこちらで精査する事ができる。できるだけ馬車での帰宅や従者との帰宅が可能である家門を選べば良い。そうすれば的を絞れるといったわけか。
中身の招待状を確認すると日時は5日後、19時から。なかなかに準備する期間は短い。
「それと、こちらも……」
おずおずと侍女が視線を向けた先を見ると、何やらリボンのかけられた大きな箱が届いていた。
何だと不思議に思いながらその箱を開けて、ローレンスは顔を引きつらせた。一方侍女はまぁと嬉しそうに顔を明るくさせ感嘆の声を上げる。
「公爵様からのプレゼントだそうです」
中には美しいブルーのドレスが入っていた。おめでとうございますお嬢様と嬉しそうな笑みを浮かべる侍女。カイルが直々に招待状とドレスまで贈ってきた事に、恐らく彼女は勘違いしてるだろう。ローレンスは慌てて再び送られてきた手紙を確認すると、招待状の他に別の紙も入っていた。そこには別途ドレスを送ったから舞踏会に着ていくようにという事と、当日は彼のパートナーとして参加するようにという旨が書かれていた。
……パートナー、だと?
こんなの嫌がらせに代わりない。お嬢様にもついに春がと喜ぶ侍女を尻目に、任務もあるというのにローレンスは頭痛の気配を感じていた。