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1-1 祝福の呪いを背負う令嬢を公爵様は離さない

こちら短編の『ローレンス・アローン』シリーズの連載版として更新させて頂きます!しばらくは毎日更新で、2章目からは加筆修正を行い連載させて頂きますので、よろしくお願いします(*^^*)

夜の帳も下りて、王都の街も寝静まりしばらくのこと。


凶悪犯(対象)を見失い、静まり返った真っ暗な通りに残ったのはうっすらとした月明かりと電灯に照らされた二人の影。無風であるが、肌に当たる空気は少しひんやりと肌寒い。

手早く花瓶に生けてあった花を使った即席の簪で髪を束ね、綺麗に着飾ったドレスも引き裂いていたローレンス・アローンはしくじったなと窮地に落とされていた。



「ローレンス嬢……?」


大変驚いた顔をした艶めく黒髪の麗しい美丈夫がこちらを見て信じられないように呆然としていた。


——こんな所でエドワーズ公爵に会うなんて


万事休すか。ローレンスは小さく唇を噛んだ。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


ガヤガヤと賑わう王都の街中。歴史的なクラシックな建造物が建ち並ぶ中、高さのある近代的なビルもちらほらと見受けられる。道先には花を売る人、大道芸をする人や、風船を配るおじさんから喜んで貰う子供たちの姿が見えた。

そこへ長い白銀の髪と薄緑色のワンピースの裾を靡かせ歩く。透き通るような白い肌に整った目鼻立ち。宝石のような翡翠色の瞳。その姿につい目で追ってしまう者もいた。その視線も気にもせずローレンス・アローンは足を止めずに歩く。街は平和だ。澄み切った青空の下、少しだけ清々しい気持ちになる。そんな時だった。


「あの子みて」


その声に振り返る。立派な馬車の中から降りてきたのは可愛らしい少女。その左手首にはリボンが包帯のように何重か巻かれていた。少女の降り立った場所には、一つ小さな花が生まれた。舗装された道の隙間から、ひょっこりと。その声の主がまた囁く。


「《ギフト持ち》よ」

「初めて見たわぁ……でも可哀想ね」


彼女が乗ってきた馬車が通った道の街路樹や花壇は見事に綺麗な花が咲き、木々は緑豊かに茂っていた。馬車の家紋とその能力で、ローレンスは少女がヒラリー侯爵家の令嬢であると理解した。


――この世界には、現実には考えにくい、科学では解明できないような事ができる者がいる。

その能力の事を皆神からの贈り物(ギフト)と呼ぶ。ただ、そのギフトが贈られた人間は決まって皆長くは生きられなかった。それどころか、生まれた頃から既に寿命が定められていた。ギフト持ちの人間は、その体のどこかに余命となる数字が刻まれていた。ギフト持ちは必ずその数字までしか、生きれなかった。

そういう人間を人は、短命に生まれてしまった人間を神様が哀れんで、ギフトを送ってくれたのだと言い、祝福人と呼んだ。そのギフトの種類も人それぞれで、超能力以外にも優れた頭脳や並外れた身体能力、芸術的センスまで多岐にわたる。


賑わいの中ヒソヒソと話す声を背中にして、ローレンスは再び歩き出した。恐らくあの子の寿命は左手首に記されているんだろう。人目に触れる場所に記されていると何かと不便だろうなとローレンスは思った。

大通りを曲がろうとした時、ふと目に入った男性が笑みを浮かべた。


「『ルーズウィンの噴水は今日もきれいですね』」


通りすがりの中年の男性にそう声をかけられる。


「ええ、『そうですね』」


ローレンスもにこりと小さく笑って答えた。そのまま男性は通り過ぎる。大通りを曲がったローレンスは人混み外れた小道に入り込む。すると彼女をオレンジ色の半透明な壁が囲い込んだ。瞬間的にその奇妙な箱の中に閉じ込められたローレンスは、一瞬でその箱と共に姿を消した。まるで、瞬間移動をしたかのように。



再び彼女の姿が見られたのは、王都の小さな古書店だった。チリンチリンとベルを鳴らしその扉をくぐり、中にいた老父の店主へ彼女は声をかける。


「『ルーズウィンの噴水は今日もきれいでしたよ』」

「……そうかい」

「今日の新聞を下さらない?」


そう微笑むと、寡黙そうな店主は後ろの棚の奥から重なる本の下から新聞らしきものを抜き取り、ローレンスに渡した。彼女はすぐさまその新聞を広げ文字を追う。


『件の女性連続殺人事件の犯人について、諜報部より極秘に我が部隊による命が下った。対象はパーティー帰りの貴族を狙っており、本日の夜会後の犯行が注視される。伯爵令嬢は参加後、参加者の動向を注意し、犯人を至急取り押さえ穏便に解決せよ』


ここ数ヶ月、若い女性、主に貴族を狙った連続殺人事件が起きていた。真夜中の犯行であり、目撃者もおらず捜査は難航。犯人は未だ捕まっておらず、現在4名ほどの犠牲者を出し、その犠牲者は増え続けていた。解読した文字に、ローレンスは目を細め小さく息をついた。そして新聞を折り畳み再び店主へ渡す。


「ありがとう。燃やしておいて」


新聞はマッチなどで火をつけずとも店主の手の中であっという間に燃えて塵となる。店主もギフト持ちだ。


「……気をつけてな」


店主の言葉に頷き返して、チリンチリンとまた来たときと同じように彼女はドアベルを鳴らして出ていった。



――神から人間に贈られる《ギフト》。

しかし中でも、ローレンスの能力(ギフト)は非常に特殊で稀有だった。


アーロン伯爵家の一人娘であったローレンス。華やかな貴族の一員であるのと同時に彼女には別の顔もあった。


彼女は、この国の機密部隊の一員だった――

本日中に続けて次話更新いたします。

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