札付きの悪 1
「…泉野。
それは本当か?」
担任の成田が言った。
「…はい。」
「…私この間も言ったよね?
いくら中学でもダブりは存在するって。」
「…はい。仰いました。」
まずは言葉遣いから。
態度を改める。
それは尖がってた私にとってどれほど難しいことか。
「…私が全部悪いのもわかってます。
それにそれを受ける権利もあるかどうかって思ってます。」
「…あなたは質が悪いって言ったでしょう?」
「…はい。仰いました。」
「…内申にも響くと私はちゃんと伝えたわよ。」
「…はい。」
「…それで?」
「…は?」
「…それであなたの希望は何なの?
一応できるかどうかだけでも聞いてあげるわ。」
成田はそう言ってため息を吐いた。
この担任成田をどれだけ泣かせてきたかは。
自分がいちばんよくわかってて。
成田は私の実姉の友人だった。
荒れてる私を担任として引き受けてくれたのは成田だけだったと姉が言ってたから。
「…スキップしたいんです。」
「…は?」
「…今年一高を受けたいんです。」
「…それで?
何で受けたいの?」
「…私が甘えただからだと気づいたから。」
「…は?」
「…中1でスキップ??
どうやったらそんな馬鹿なことを考えつくの?
しかもあなたの場合は出席日数が足りないのに?」
私の頭の中では。
あの白昼夢に出てきた年号に突き動かされてたんだ。
それは今から2年後のこと。
そして。
私は一高の前で笑ってた。
それを叶えたいと思った。
「…これから全部来ます。
必要なら補習も受けます。
それから勉強を先取りで頑張りますから推薦状を。」
「…泉野さんはどうしてるの?」
「…姉ですか?」
「…ええ。大怪我をしたって聞いたわ。
お見舞いに行こうと思ってる。」
「…姉は強いですよ。
今日だって病室に寄ったら蹴りだされました。
成田先生によろしくって。」
「…泉野さんらしいわね。
真理ちゃんのこと心配だっていつも言ってたし。」
ひとりごとのように成田は言って。
「…私は泉野真理。
あなたのことを心から信用はできない。
今までのことを考えたらそれもわかるわよね?」
私は頷いた。
「…だから私はあなたを試します。
あなたが本当に変わったか。
それを判断したいと思う。
推薦状とかスキップとかそれは後から考えなさい。
良いわね?」
「…はい。」
私はそれしか言う言葉がなくて。
職員室を出ようとしたら。
「…じゃあ今から泉野さんのところに行くから。
あなたついてきなさい。
わかった?」
成田はそう言って。
立ち上がった。