平手打ち 1
うちの師範の親だって。
私が背が高くなってからは怖がってろくに見もしなくなって。
母に至っては背が小さいからか。
私が見下ろすと怖がる。
それは私が粋がってるから。
それはわかってる。
わかってるんだけど。
「置いて行かれるほうの身なんか知るか!!
てか。あんたの兄貴だって本当は死にたかったかもしれないだろうが!!
あんな事故!!私は間近で見てたんだ!!」
佐伯凛子の兄貴の佐伯恭介は。
私を団に誘った張本人で。
楽しくないこの人生を謳歌しようぜ??
誰にも文句は言わせない。
そう言ったから。
私は団に顔を出すようになり。
団の中でもトップに近い強さと誇りを持っていた。
それは悪の誇りってやつなんだけど。
恭介の口癖は。
今日も明日も明後日も。
こんなにつまんない世界なら。
早く死にたい。
そう言った。
私が常々思ってることだったから。
共感が持てて。
恭介といると安心できた。
恭介は頭がよくて。
私より4つ上で。
かわいい妹の凛子より私をかわいがってくれて。
私をバイクの後ろに乗せて。
風を切って走る。
私を降ろしてから。
ほかの団の奴と競争になった。
その時にスリップ事故を起こして。
「お兄ちゃんのことは言わないで!!
私は泉野さんを責めたくないんだ!!」
私を雁字搦めにする枷は。
いつだって息ができないぐらいに。
「いつだって恭介は死にたいって言ってた!!
妹だったらわかってるだろ!!
何で死にたいか。
私みたいに枷が大きすぎて息が詰まるんだよ!!
死んだら楽になるんだろうって!!
そうやって!!だけど!!
恭介はコーナーを曲がり切れなかったんだ!!」
「なんで今さらそうやっていうの??
どうして生きられるのにそう言うの??
私がお兄ちゃんを追い詰めたとでもいうの??
それは弱さじゃない!!
みんな枷の中で生きてる!!
それなのに!!私は!!
真理が!!真理ちゃんが倒れてるのを見て。
お兄ちゃんみたいに死なないでって真っ先に思ったんだよ!!」
凛子の手が私の頬を叩いた。
みんな怖がって何も言わないのに。
「…恭介が死んだから。
私は生きてても意味がないって思って。」
「それでも私は生きててほしいって思ったんだ。」
佐伯凛子。
私が常日頃から。
苦手でまぶしくて。
かわいくて。
嫉妬の対象だったやつ。
それなのに。
私は。
気づいたら大泣きしてた。