ラスボスは誰
月曜の朝は、皆、少々うなだれながら気合いを入れつつ出勤する。そんな中、千秋は胸を張って歩いていく。いつもと同じ通勤コースを、いつもと違う時間で。
名古屋駅に着くと、待ち合わせ場所の喫茶店に向かう。店の前ではすでに一色が待っていた。
「おはようございます」
「おはよう、待った?」
「開店前に来てしまいました。どうにも落ち着きません」
「キスしてあげよっか」
「なんです急に、遠慮しますよ」
「肩のちから抜けるわよ」
「そういう効能があったとしても遠慮します、自力で落ち着きますよ」
「それが出来るんなら大丈夫よ。また落ち着かなくなったら私にキスされると思いなさい」
「なんで罰ゲームにしてしまうんです」
掛け合い漫才のような会話をしながら、前に来たときの席が空いていたので、そこに座る事にする。
モーニングセットのコーヒーを互いに頼み、仕事の話に入る。
「土曜日はお疲れ様でした、その後はどうです」
「キジマ達は女性警察官を襲ったという事だから、私には影響はないわ。影響があるのは群春側の方ね」
ネットニュースだけでなく、テレビ、ラジオ、新聞にも事件は取り上げられている。群春物産は昨日今日と大騒ぎになっているだろう。
「まず、コンペがあるかないか? からよね」
「無ければ問題なし、ですからあった時の対処ですね。あるとしたら群春は代役をたてる事になります」
「キジマ達が社内での人間関係をうまくやっているかな」
「していない方がありえそうですが、ここはムシのいい考えはやめましょう」
「そうね、[最悪の事態を考えて最善の準備をする]の精神でいきましょう」
「では、コンペはあるとして群春は代役が来るとします。こちらは商品も価格も何ら変わりありませんが、それは財団側には宣言済みです。問題はないですよね」
「そうね、付加価値をつけるとは言ったけど……」
その付加価値は、一色が引き受けるといってくれたが、その内容は千秋はまだ聞いてない。
「一色君、それ見つかったの」
「はい」
一色はあっさりこたえる。
「たぶん相手側は間違いなく喜んでくれるでしょう」
「何なのそれは」
一色は以前渡した財団側の関係者の資料を出すと、この前指したAAのところを指さす。
「チーフは、アニメとか特撮とかのヲタク趣味ありますか」




