魔女の手のひら
日曜の午後になった頃であった。
キジマの取り調べが、署内某所でおこなわれていた。
「だからぁ、女に嵌められたんですよ。あのサノって女に」
「どういう風に嵌められたっていうんだい」
「仕事上のライバルってやつ? こっちは天下の群春物産だっていうのに、エクセリオンとかエクスタシーとかいう外国の会社のくせに突っかかってくるんだよ。うっとおしいでしょ? そういうの。だから無視してたら挑発してきてさ、あんまりひどいから注意しにいった訳よ、わざわざクルマ借りてさ」
足を組んで背もたれにもたれ掛かりながら、イスをギシギシ鳴らしながら、憤慨そうにキジマは話す。
「それで大人として注意してたら逆ギレしてきてさ、そんで蹴らちまったんだよ。オバサンと思って油断したかな。いや、こっちは手を出す気無いのに、向こうはその気だったんだよ。だから嵌められたんだよ。なあ刑事さん、わかるだろぉ」
調べ官も調書を録る係りも、黙っている。
取り調べの部屋の外で、生活安全課の担当が覗いてたのを見かけて、ミドウが話しかけた。
「どうだい調子は」
「門間さんの我慢強さに感心しています」
「カドマは打たせるだけ打たせたあと、やり返すからな、こっからが面白いぞ」
言うだけ言って落ち着いたのか、キジマは黙った。頃合いとみて、門間は話し始める。
「キジマくん、君は本当にそのサノさんに蹴られたのかい」
「はぁ? そうに決まってんだろ! 見ろよここ、蹴られた後があんだろ」
「そのサノさんだけど、その日その時間には別の場所にいたよ。証拠もある」
「ウソに決まってんだろ! あの女に蹴られたんだよ! なに贔屓してんだよ!」
「我々警察は公正に調べているよ、佐野さんは昨夜壱ノ宮駅から友人の家に向かっている。駅前の防犯カメラにしっかり映っていたよ」
「見間違いだよ、人違いだ」
「昨夜は君たち5人でサノさんを拉致する計画だった。2人は名古屋からサノさんを尾行して、2人は壱ノ宮駅で待ち伏せして、君はクルマで待っていた」
キジマはギクリとした。
「佐野さんが壱ノ宮駅に着いて、駅ビルのトイレに行く。そこにうちの小山が偶々いて、小山が出ていくと、尾行2人と待ち伏せ2人は佐野さんと間違えて尾行する。そしてイナリ公園そばの暗闇でさらに君のクルマの近くの所で襲ったと」




