その3
あの時の話した内容を思い返してみたが、とりあえず名乗ってはいないのだけは間違いないから、その事を告げる。
「なんで会話しちゃうのよ。予定では足留めして、アタシと入れ替わるだけだったでしょうが」
「だってあんまりにも卑劣なヤツだったから、ひと言言ってやりたくて……」
「ひと言じゃなくて、ひと蹴りだったでしょうが。だからキジマは特殊警棒振り回してたのね。何してんのよ」
「そんなに言わなくてもいいじゃない、あんただって同じ立場なら同じ事してたわよ」
「しません~、あんたみたいな単細胞じゃありません~」
「あんたの方が単細胞じゃん、すぐ手が出るし、それで何人にふられたのよ」
「ふられてないわよ、そのくらいでビビるかどうか試しただけじゃん。だからアタシがふったの」
「そのわりには毎回泣いてたじゃん、私とケイで何回慰めてあげたと思ってんのよ」
千秋と小山の話がどんどん脱線していくのを黙って聞いていた蛍が口をはさむ。
「それでハジメ、どうすればいいっていうか、どうなっているの」
その言葉で、2人は我にかえる。
「キジマの言葉のウラをとるため、千秋に任意同行をお願いすると思うの。そのときどうするかを知っておきたいの」
「どうって……」
千秋が蛍の顔を見る。
至近距離の千秋の困り顔、嬉しい、こんな顔が見られるなんて……
蛍はあぶなくイッてしまいそうになる。が、それ以上のモノを手に入れる為に我慢した。
千秋の手からスマホを受けとると、ハジメに話しかける。
「ハジメ、かわったわ。あのね、素直に千秋と知り合いだって言っていいわ。大丈夫よ」
「え、でも」
「千秋宛の話を私のスマホにかけたってことは、まだ知られていないんでしょ? だったら名前と住所で知ったことにして、知り合いだと言えばいいわ」
「いいのそれで」
「大丈夫よ、そうね3日もすれば気にしなくなるかな。あたしに任せといて」
小山は迷っていたが、蛍に信じると伝えて通話を切った。
「大丈夫なの」
困り顔の千秋を見ながらこたえる。
「なめてもらっちゃあ困るねぇ、あたしを誰だと思ってんのよ」
蛍の顔は得意気にして満悦な顔をしていた。




