その3
「今夜ここで張り込んでいるとは聞いてましたが、本職もこのような事になるとは思いませんでした」
「小山は相変わらす堅いな」
それはミドウさんの前だからです、と言いたかったが今回も恥ずかしくって言えなかった。
「格好からするとパーティーかなんかの帰りかい。すまないが調書をとりたいから、署まで付き合ってくれるかい」
「はい」
と、返事した後、もうひとつの用事があるのを思い出した。
「ミドウさん、すいません。用事がありますので先にそちらを片付けてきます。すぐに行きますので」
腰から直角に曲げて礼をすると、返事も待たずにハジメは暗闇に向かって走り出した。
少し離れたところに駐車しているクルマの中で、キジマが困惑していた。
一体なにが起きたんだ。あいつらが予定通り襲ったと思ったら、女に全員叩きのめされて、何処からかわいて出た男達、いや警察か、それに全員捕まるなんて。
「どうなっているんだ、一体」
とにかく離れなくては、クルマのエンジンをかけて走りだそうとするが、何かに引っかかって動かない。
一刻も早く立ち去りたいから、アクセルを踏み込むが、いっこうに動かないどころかガキガキガキと大きな音までたてる。
ニュートラルにして、サイドブレーキを入れ、クルマから出てみると、後輪に盗難防止用のチェーンがかかっていた。
「誰だよ、こんなことしたのは」
これではクルマを使えない。仕方ない、クルマを置いてとりあえず離れようと、運転席に戻りエンジンを切る。
「くそ、どこに行けばいいんだ」
土地勘の無い所では、明かりや建物が見えてもどこにどう行けばいいか分からないので、キジマは直ぐに動けなかった。
「もちろん地獄よ、案内してあげる」
一人言のつもりが、後ろから返事がきたので吃驚した。振り返ると暗闇の中に女が立っている。
「誰だよ、てめえ」
「あら、私に用があるんじゃなかったの」
女は歩み寄ると、駐車場の街灯が顔を照らす。
千秋の顔がうつしだされた。




