その2
他の男達も拉致組に手錠をかけると、4人とも何がなんだかわからない顔をしている中、5人の男達は警察手帳を見せる。
「な、なんで警察が」
「待ち伏せだろ、おとり捜査だ、違法捜査だ、訴えてやるぞ」
口々に騒ぐ拉致組に、警察官のひとりがこたえる。
「別におとり捜査じゃねえよ」
「そんな訳ねぇだろ、俺達が襲うところに偶々いるわけねぇじゃん」
「小山、コイツらに見覚えあるのか」
「いえ、ありません」
唯一ある街灯の下で顔確認すると、拉致組もあっと言う。
「違う」
「こいつじゃねえ」
「誰だよ、お前」
「……」
襲われた小山と呼ばれた女の顔を見ながら、ふたたび口々に言う拉致組。ひとりだけが、ずっと小山の顔を見続けている。
「つまり別の女性を襲うつもりで、うちの女性警察官を襲ったというわけか。それもよりによってハジメを襲うとはな」
「玉ノ井さん、その呼び方もうやめてください」
「やめて欲しかったら現場に出るの止めな。女は中にいる方がいいんだよ」
「それセクハラじゃなくて、男女差別です」
「差別なんかじゃない、危ない仕事は男がやるから任せとけと言っているんだ」
「タマ、その辺にしておけ。大事なクロの練習相手だぞ、機嫌を損ねてしまうとクロに恨まれるぞ」
「ウッス、ミドウさん」
ぶつぶつ言いながら、玉ノ井と呼ばれた男は無線で連絡とりながら、拉致組の身体検査を始める。
その時、拉致組でずっと小山を見ていた男が叫んだ。
「ハジメちゃんだ!!」
あまりに大きな声なので皆がビックリする中、お構い無しに喋りはじめる。
「ハジメちゃんですよね、アイドル格闘家の小山ハジメ《こやまはじめ》。高校生の頃から総合格闘技大会に出場して、いきなり優勝。大学卒業までの7年間無敗の記録を残した、美少女アイドル格闘家の!!」
「もう美少女じゃないけどな」
「玉ノ井さん」
ちゃちゃをいれた玉ノ井を睨むハジメと、それをニヤニヤしながら見ているミドウ。
「もう10年も前の事なのに、よく分かったな」
「お、俺、格闘オタクなんすよ、会えて光栄です。ずっとファンでした」
「そう、だったらこんな形で会ったのは残念ね」
「いやー、ハジメちゃんに投げられたー、一生の想い出だー」
全然聴いてないし分かってない彼に呆れるハジメの肩をポンとミドウが叩くと、他の警察官に拉致組全員を壱ノ宮署に連れていく様に指示した。
「班長、有り難うございました」
「ここのところ不審者の通報が多かったからな、生活安全課の応援で張り込んでいたら、小山が来て襲われる場面に出くわしたからビックリしたよ」




