思わぬ伏兵
名古屋駅近くのホテルでのパーティーは盛況であった。
「やあ千秋さん」
パーティーの主催者である、七事赤也氏が両腕を拡げながら話しかけてくる。
千秋は近づき、軽くハグして頬をつけ合う欧米式の挨拶をする。
「ご無理をいってすいません」
「かまわないよ、君のその姿を見ただけでじゅうぶん礼を頂いたよ。自分がゲイだということを忘れそうだ」
「最高の賛辞ですわ」
2人は離れると、握手をした。
七事赤也氏は、名古屋というより中部地方では知らぬものはいないという、大病院の院長だ。
そしてもう1つの顔は、[ロバの耳の会]の会長でもある。
一色の人脈により土曜日にパーティーを開催しているところを探していたら、会長主催のチャリティーパーティーがあるというので、参加をお願いしたところ、会長は快く受け入れてくれた。
「何をするのかは訊いてないよ。今日は会員も何人か居るからね」
場所は提供するけど、あとは一切関知しないと暗に言われる。
「わかりました」
千秋は一礼するとその場を後にした。
パーティーが始まって1時間が経とうとしていた。食事をしたり、控えめにお酒を呑んだりして時間を潰していた千秋は、そろそろ状況を確認しておこうと、控室に戻りスマホを見ようとした、その時だった。
「いたいた、佐野君、ここに居たのか」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこに課長がいた。
「か、課長、どうしたんです、こんなところで何をしているんです」
「いや、やはり君だけに任せるのはどうかと思ってね。居ても立ってもいられなくて手伝いに来たんだよ。で、例のバイヤーは何処だね」
チャリティーパーティーとはいえ、さすがは主催者が七事会長だけの事はあって、参加者はTPOをわきまえた姿をしている。むろん千秋もだ。
その中にビジネススーツ(しかもくたびれた)姿の課長はすごく浮いている。
さっきからちらちらと見られている。目立つのは不味いなと千秋は思った。
「どうやって入って来られたんです」
「入り口で止められたけどね、君の上司だ、ビジネスの話で来たんだ、エクセリオンの管理職だと言ったら入れてくれたよ」
軽く目眩がした。そんなことで会社の名前を出すなんて。
こういうところでは、自分の所作マナーが会社の評価になると昨日言ったばかりではないか。
そのやり方では、チンピラがオレにはバックがついているんだぞって意気がるのと何ら変わらないのに、わかってない。




