チームの目覚め
「さっきの話はどういう意味なんですか」
まっさきに一色が千秋に訊ねる。千秋は常務室での内容を2人に話した。
「かぶりましたか。たしかにそれしか手は無いですが……」
「大丈夫よ、一色君ならできるわ」
しかし当の本人、一色は沈黙していた。千秋はおやと思う。
「どうしたの」
「いえ、何でもありません。ただ、チーフと仕事をしていたら、僕ってサポートの方が向いているのかなって、思いはじめまして」
塚本が気づかれないくらいの角度で頷く。
「そんなことないわよ、一色君、華があるもの。大丈夫よ」
華のあるなしじゃなくて、向き不向きの話なんだけどなと、一色は思ったが、ある意味これもサポートかと思い直し腹を決めた。
「それよりこっちの方はどう、何とかなりそう?」
収支データの改ざんが見つかったかを訊いてみたら、拍子抜けの答えが帰ってきた。
「もう終わってます。後は手に入れたデータを分かりやすくまとめるだけです」
一色が得意気に言う。
「え、もうできているの」
驚く千秋を見て、一色と塚本が目を合わせながら、にやにやする。
「タネを明かせば、もうすでに塚本さんがやっていたんですよ。収支を課長自らはじめたときに怪しかったので、データをコピーしてとっといたんです。万一、自分のせいにされないように」
抜け目ないな塚本さん、と千秋は塚本をみる。
ただまあ、成る程とも思った。なぜなら彼女は、9to5の労働しかしていないのに、仕事が滞った事が無いのだ。
ただ手が速いだけではないとは思っていた。おそらく先読みにも特化しているのだろう、だから仕事が早いんだなと千秋は納得した。
「となると、あとは付加価値と課長用のフェイクデータね」
「それも大丈夫です。フェイクデータは塚本さんが同時進行でやってます」
塚本の端末のモニターを見ると、ウインドウが2つ出ていて、それぞれの仕事を同時にやっていた。
本当にすごいなこのコはと、千秋は舌を巻く。
「付加価値の方は僕がやってます」
今朝渡した資料をもとに、ネットで何か探しているようだった。ただ、どうにもディープなオタク画像を見ているしかみえなかったが。
その時、千秋のスマホが振るえた。
「あ、みんなちょっと静かにして」
スマホから話し声が聞こえてきた。
「キジマさん……」




