その2
「呼んだのは他でもない、来週月曜にある定例会議に2人とも出席してもらいたい。理由はわかるな」
課長も千秋も、ぎょっとする。
「常務、私もですか」
「当然だろう、当事者なんだから」
「あの、その会議は何時からでしょうか」
「午前11時から昼食休憩を挟んで、午後1時までだな。なにか不都合でもあるのかね」
「あります、月曜は午後1時からコンペです」
護邸常務の顔が強ばり、思案顔になる。千秋も同様だ。
会議に呼ばれる理由はわかっている、横領の件の釈明だ。千秋自身が出なければ、課長だけとなる。ひとりで話すなら間違いなく千秋のせいにされてしまうだろう。出ないわけにはいかない。
一方、コンペに関しても千秋が出ないと都合が悪い。まわりに迷惑かけないように独りでやっていたので、所々、千秋本人でないと説明できないところがある。気づかいが裏目に出てしまった。
「なんとかならんのかね」
「佐野君、君はコンペに行きなさい。この仕事は会社の為でもある。会議には私が出よう。これは課長命令だ」
冗談じゃない、課長1人で会議に出したら間違いなく濡れ衣を着せられる。それだけはダメだ。やはりこの手しかないと千秋は決めた。
「私も会議に出ます」
「コンペはどうするんだね」
「部下の一色に行ってもらいます」
「さ、佐野君」
課長はぎょっとする。
「やれるのかね」
「多少不安なところもありますが、それは今から補います。彼ならやれますから」
付加価値を付けるからと、コンペを延ばした本人が出席しないのは、財団側の印象を悪くさせてしまうが仕方がない。ベストができなければベターしかないのだ。信頼している一色に任せるしかない。
「……わかった、そうしてくれ。では月曜は会議の30分前にここに来るように」
「はい」
課長と千秋は返事をし、退出しようとする。
「あ、佐野君。昨日の件はどうなっているかね」
「現在、鋭意製作中です」
「わかった。できたら報告してくれ」
「わかりました」
常務室を出て帰り道、課長が千秋に話しかける。
「佐野君、常務に何を頼まれたのかね」
「プライベートな事です。それよりは課長、先程話しかけた件ですが、喜んでください、仕入れ価格を下げることに成功しました」
「なんだって」
「別の仕入先が見つかったんです、そこなら今より25%引きの値段が出せます。群原物産より安値だから勝てますよ」
「そ、そうなのか」
課長の蒼白顔色がさらに白くなっていく。




