その2
壱ノ宮駅から6時半発の快速電車に乗り、名古屋には6時40分に着く。
いつもと違う乗客と朝の空気が、より高揚感をあげた。
ホームにある立ち食いの店で待ち合わせしたのだが、まだ開いていなかった。入り口に7時からと表示してある。早く来すぎたかなと千秋は思ったが、そうでもなかったようだ。
10分後、待ち合わせの人物が来る。
「姐さん!!」
大きな声で話しかけながらノブが駆け寄ってきた。
朝の通勤時間だから、目立たないようにスーツを着てくるように言っておいたので、スーツ姿なのだが、茶髪とピアスはそのままだった。
どう見ても、朝帰りのホストにしか見えない。それが姐さんと呼びながら近づいてくるのだ。千秋の回りの人は、反社会勢力の人だろうかとジロジロ見る。
千秋は合図をしてノブに近づき、腕をとって人気の無い通路まで引っ張っていく。
「おはよう、ノブ。朝早く来てくれてありがとう」
「姐さんの為なら何時でも来るっす」
屈託なく笑顔で応えるノブに、ちょっとイラついたがスルーして話を続ける。
「あんたにもらったデータ役に立ったわ。キジマ達がどんな奴らかも、それで分かったの」
「あ、やっぱり何かやってたんすね。なんかそんな感じがしたっすよ」
千秋は資料を取り出すとノブに見せる。それは5年前の事件だった。
「うわっ、あ奴らこんなコトしてたんすね、スゲー、スゲー、スゲー」
無邪気に興奮するノブに、千秋はネクタイを掴むと、ぐいと引き寄せてから通路の壁にノブを叩きつけるように押しつける。
驚いているノブのネクタイをそのまま引っ張り、顔を近づける。
「あ、姐さん!?」
「いい? ノブ、これは悪いことなの、やってはいけないコトなのよ、わかる?」
千秋の静かに怒気をはらんだ、爆発させないように押さえている声と睨みつける目に、ノブは怯えながら頷く。
「あんたが喜んでいるこれを、キジマ達は私にしようとしているの。あんた、私がこんな目にあってもそんな風によろこぶの?」
「そんなコトないっす、イヤっす、姐さんがこんな目にあうのイヤっす」
「そう、いいコね。おかげであんたと縁を切らずにすんだわ」
千秋は引っ張っていたネクタイを離し、両手で直してやり、スーツの埃をはらってやる。
「私がこんな目にあうのイヤなのね」
「はい!!」
「じゃあ、この仕事を頼める?」
千秋は蛍の作った作戦チャートを渡す。




