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その3

 夜11時ちょっと前に、蛍のところに着いた。


 実家は別の所にあるが、蛍はカブライスポーツジムにプライベートルームを設けて、そこに住んでいる。

 12畳くらいの洋室に全て置いてあり、リビングであり、寝室であり、キッチンであり、事務室でもある。


 建物裏にある非常階段を上り、蛍の部屋へのインターフォンを押す。


「ケイ、遅くなってごめん」


「……いま開けるわ、入ってきて……」


 心なしか声に元気が無いような蛍の返事とともに、扉のロックの外れる音がした。

 勝手知ったる他人の家とばかりに、千秋は遠慮なく入る。


「ごめんね遅くなって、あ、でも喜んで。味方が増えたよ」


「……そう……よかったわね……」


 中央のリビングスペースにある卓に、突っ伏しながら蛍は返事をした。


「どうしたのケイ、疲れちゃった? 無理なお願いしてごめんね」


「そうじゃない、そうじゃないのよ、千秋」


ガバッと起き上がると、蛍は千秋に駆け寄り抱きついた。


「ちょっ、ちょっと、ケイ、どうしたのよ」


「千秋、あたし、あたし、ゆるせない、ゆるせない」


 嗚咽混じりに涙声で、蛍は千秋から離れずにゆるせないを連呼した。

 千秋は蛍が落ち着くまで、優しく抱きしめる。




 ようやく落ち着いたのか、抱きしめる手が緩んだので、蛍の肩を抱きながらリビングスペースに連れていき座った。


「落ち着いた? 何があったか話せる?」


 蛍は無言で、卓の上にある資料を千秋に渡す。目を通し、読み込むに次第千秋も顔色がかわった。


「これ、本当なの」


「たぶん間違いないと思う。自分で集めて調べた資料と、千秋の持ってきたデータを照らし合わせて、その上でネットからの情報で補完したから」


「一色くんの見当が合ってたという事か……」


 千秋は吐き捨てるように呟いた。


「ねぇ千秋、止めない? この計画」


「ケイ? どうしたのよ」


「あたし、あんたがこんな目に会うかと思うと……


 蛍はまた泣き出した。千秋は蛍の抱き寄せながら、頭を撫でる。


「大丈夫よ、落ち着いて、私はあんな目に会わないわ」


「でもでも……」


「落ち着いて、しっかりしてよケイ、あなたらしくないわよ。いつもみたいに高いところから見下ろして何もかも知っているような、自信たっぷりの態度と物言いに戻ってよ」


千秋は蛍の頭を両手で持ち、おでこをくっつける。



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