頂は遥か 前編
窓からの陽射しが南に移ったので、ようやく眩しくなくなったが、なんとなく正面ではなく西側に向いて座るのがクセになっている。
護邸はこの部屋から出ていく事は避けられたが、対面的に何かしないといけなかと思い、企画部を引き受けてもらう営業担当の北斗常務に問い合わせたところ、
「護邸常務どうせ返り咲くんでしょ、めんどうだからいいですよ」
と、笑顔で断られた。
ひとつ年下のこの北斗常務《後輩》は、営業と企画の仲のように、ともに協力しあって出世した仲である。
その思いに応えてやりたいが、今のところ手詰まりだ。さてどうするかと、深く息を吐きながら護邸は思案に繰れていた。そのとき、
「常務、失礼します」
ノックもせずに部屋に勢いよく飛び込んできたのは千秋であった。
「どうしたそんなに慌てて。何か不都合でもあったのか」
「いえ、常務に御伝えしたいことがありまして来ました」
興奮気味の千秋が息を整えて話そうとするのを、護邸は椅子を正面に向けて聴く姿勢にして待った。
落ち着いた千秋は護邸の前に来ると、話しはじめる。
「いいお召し物ですね。これクリーニングできてますか」
千秋が目配せしながら訊いたので、盗聴確認の方とピンと来た護邸は、出来ていると応える。
千秋は護邸に顔を近づけ、力強く言い放つ。
「常務、私、社長になります」
意味がよくわからなかったので護邸は思わず聞き返す。
「社長ってどこの」
「本社のです、そうすれば世間が私を認めます、ジェーンだって手が出せなくなるでしょう。さらに後継者ができるから、アレクも引退できます、問題はすべて解決します、私たちは晴れて結ばれる事ができるんです」
護邸は千秋の言ってる事がしばらく理解できなかった。
「その為には手柄を挙げなくてはなりません、常務、どんどん仕事をまわして下さいね、お願いしますよ」
「あ、ああ」
「では、失礼します」
下がって、深々と挨拶をすると、千秋は来たときと同じように勢いよく部屋から出ていった。
あとに残された護邸はしばらく茫然としていたが、突然、大声をだして笑いだした。




