その3
(私の手伝い? リストラ課であった企画3課から、今度は姥捨山課ともいえる調査資料部ですよ?
何を手伝うというのよ)
「ほら早く着任を認めてよ」
千秋の疑問を無視して詰め寄る加納に、とりあえずハイとこたえた。
「ところで手伝いと言いましたが、いったい何を……」
「知らないわよ、ただ常務がやることに無駄は無いわ。いつか解る時がくるわよ」
女同士の会話には口を挟むべからずと言わんばかりに、町屋と塩尻は顔をそらして静かに茶をすすっていたが、矛先はそちらに向く。
「町屋課長代理と塩尻課長補佐ですね。辞令は読まれましたか」
「辞令?」
「やっぱり。佐野主任、こういうところのサポートをとりあえず私がやります。いいですね」
「なんのコトです、辞令って」
「明日、4月1日付けで調査資料部発足。部長は佐野千秋。そして部内の調査課課長に町屋課長代理、資料課課長に塩尻課長補佐が任命されます。つまり御二人とも正式に課長職です。そしてそれぞれに課員を1名ずつ配属。調査課に一色、資料課に塚本、以上」
そこまで一気に言うと、自分は部長のサポート役だと付け加えた。
「えっと、どう変わるの」
「御二人ともあくまでも課長待遇であって、課長じゃないのよ。つまり給与賞与は今まで課長職と同じだったけど、退職金は一般職扱いになるの。だけどこれから定年までは正式な課長となるから金額が増えるのよ」
これを聞いて2人は喜んだ。互いに今後の介護への負担が減ることを期待できるのだ。
2人の先輩は別として千秋は疑問に思う事を訊いた。
「こういうのって経理から横槍がはいるんじゃないの」
経理部担当常務の大鳥は、好意的ではないと知っているからだ。
「確証は得て無いんだけど、あそこの2課長がこの提案を推してくれたらしいわ。理由は知らないけど」
「馬場さんが」
「なに、面識あるの」
「ちょっとね」
(絶対裏と下心があるな、そのうち恩着せがましくやって来るだろう。覚悟しておかないと)
千秋の不安をよそに、加納が室内を見回す。
「ああもう何よ、ここ窓もないの。部屋も半分資料で占領されているし、こんなところで6人も居られる訳無いじゃないの。デスクなんか置いたら、その上で仕事するしか無いじゃない」
そう言われても、どうしようもない。
「いいわ、私が新しい部屋を探してくるから。あなた達はそこでお茶でも飲んでなさい」
言い終わると同時に、加納は部屋を出ていった。
「けたたましい女だねえ」
「ありゃ旦那になるやつは尻に退かれるだろうな」
町屋と塩尻は、いるかどうかわからない相手に同情するのであった。




