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その3

 時は少し戻って午後10時過ぎ頃、蛍の部屋で千秋は愚痴っていた。


 帰宅してすぐに蛍のところに来たが、年度末の決算期だからちょっと待っててと言われて、ずっと蛍の部屋で呑んでいたのだった。


 千秋第一の蛍も、流石に経営を疎かにするわけにはいかない。

 しかし千秋にも気にかかるから、鬼の形相で事務ワークをこなして、思ったより早く仕事を片付けた。これにより恩恵を賜ったのは社員達であろう、残業をそれ程しないで済んだと喜んで帰宅していった。


 今日一日あった出来事を何度も話す千秋を、はいはいと言いながら聞き役に徹する蛍だが、何度目かのねえケイどうしたらいいで口を開いた。


「なんか大きな目的を持ちなさいよ」


マト外れみたいな言葉に千秋はムッとする。


「今日の出来事が散々だったのは、千秋がポンコツだったのが原因でしょ。だから大きな目的を持てと言ってんの」


「意味わかんないんだけど」


「アンタがポンコツになるのを見るのは、初めてじゃないの。アンタは何か大きな事を成し遂げた後は大体そんなかんじになるのよ、高校の時も大学の時もそうだったわ」


「そうだっけ」


「大学院を出た後、バックパッカーになって世界を廻ったのもそう。アンタは何かやってないとふらふらとポンコツ状態になんのよ」


うー、と唸りながら千秋は蛍を睨みつけるが、蛍は容赦しない、言葉を続ける。


「課題がどんどんくる学生時代なら気づきにくかったけど、社会に出て自分の生き方を自分で決めるようになると浮き彫りになったわ、千秋は目的が無いと危なっかしいって。実際、旅行中に危ない目にあったのが何度もあるじゃない。あたしは何度も肝を冷やしたわよ」


「ちゃんと無事に帰ってきたじゃない」


「左遷させられてね。どうせ向こうで何かトラブったんでしょう」


くっ、鋭いなと千秋は思った。


 世界的大企業のトップ(しかも70代)と恋愛トラブルで殺されかけた、なんて蛍が知ったら卒倒するだろう。下手したらジェーンに挑むかもしれない、彼女の恐ろしさを知っている千秋は、そんなことにしたくないので、蛍には派閥争いに巻き込まれて左遷されたとだけ言ってある。


「返事が無いって事は当たりでしょ。どんなトラブルか知らないけど、ポンコツ状態じゃないアンタなら避けられたとあたしは思うよ」


負け犬のようにうーうー唸っている千秋を見ながら蛍は思う。


 実際、千秋は能力が高い方だと思う。だから少し頑張れば大抵の事はやれるのだろう。しかしそれは両刃の剣であり、世の中をなめやすくもなる。千秋自身そんな気は無いだろうがポンコツ状態になるのは、心のどこかにそんなところが在るのだろうと。

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