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その8

「そして、どうしようもない金額になったら、流石に発覚する。2人は警察沙汰で社会的に終わってしまってただろうね。そうなればどちらにしろ企画部長は責任をとらなくてはならなかったろうな。つまり結果は変わらないと思うよ」


「そうでしょうか」


「まあ仮定の話だけどね。そのルートの可能性はあっただろうね。それに比べたら、結果は一緒でも君のやった事の方が傷はずいぶん浅くすんだと思っているよ、感謝したいくらいだね」


「それにしては、あちこちで恨まれていますが」


「ははは、気にし過ぎだよ。人間なんてわりとコドモだからね、何かあったらヒトのせいにしたがるのさ。人事はお前のせいだ、仕事が多いのはお前のせいだ、お腹が空いたのはお前のせいだ、机の角に足の小指をぶつけたのはお前のせいだ、モテないのはお前のせいだ……」


「そんなことまで私のせいにされても」


「総務部長だった頃は、そんな事ばかりだったよ。サンドバッグみたいに打たれて叩かれてさ」


「常務はそんなときはどうなされたんですか」


「愛読しているSF小説があってね、その中にあったセリフを思い出している」


「それは」


深く息を吸うと郷は心を込めて言った。


「それがどうした」


ぽかんとしている千秋に、郷はにこりと笑う。


「物語の中では、どんな弁論にも勝てる方法として出ているんだけどね、私も理不尽な言葉にはそう言い返しているよ」


心の中でね、と言葉を続けた郷を見て思わず噴き出した。あははと笑う姿を見て、郷は目を細める。

 笑いがおさまると千秋は深呼吸をして、郷に礼を言った。


「ありがとうございます、常務。少し気が楽になりました」


 千秋は立ち上がると、郷に向かって深々と頭を下げてから、企画部に戻った。




 部の連中からは相変わらず冷たい視線が送られていたが、郷の言葉が支えになったのか、千秋はわりと平気になっていた。

 段ボール箱をそれぞれの机に置くと、自分の分を片付ける。それほど多くない私物のためすぐに終わった。


 さて、これを何処に置いておくのだろうと気がつく。

 内線で加納に訊くと、新しい職場である資料室に置いておくように言われたので、その旨を一色にメールしてから、自分の分だけを持っていく。


 資料室はあまり使用されない理由から、ビルの不便な位置にある。千秋は迷い迷い到着するとノックした。が、返事はない。

 ノブを回すと開いている。失礼しますと言いつつ入ってみたが、人の気配は無い。どうやら不在の様だった。

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