その5
「じつは御礼と御詫びと口止めの意味で接待しているんです」
「何か口止めするような事を知りましたかしら」
「それはこれから話すんです。それが御礼と御詫びの事です」
一皿目を食べ終わると、口もとを拭きながら芝原は話し始めた。
「まずはすみませんでした。今回のコンペですが裏がありました」
やはりね、とは思ったが千秋は素知らぬふりして話をうながした。
「うちの課長が群春さんからリベートを受け取って、コンペの便宜をはかるというのが発覚しまして」
「どうして分かったんです」
「群春さんに警察が入ったとき、支社長から課長にカネが流れている事が発覚して、確認に警察が来ましてね、それでわかったんです」
「課長さんはどうなったんてす」
「リベートを受け取ったかの確認だけでしたから、お咎め無しですが、社内的には有りです。僕の本来の上司から問い詰められて全部白状しました」
「本来の上司って」
「僕はもともと財団本部所属なんです。今は出向のかたちで来てますが、明後日の来年度からまた本部に戻る予定です」
「そうだったんですか、じつは私も異動が決まりまして、この仕事は手を離れる事になっているんです」
「そうなんですか、となると後任は一色さんですか」
少し声が上向きな言い方で芝原は訊ねる。
「いえ、一色も異動です。まだ未定なのではっきりと言えませんが、後任は営業の誰かが担当になると思います」
「そうですか」
がっかりした感じで返事をされた。一色に会いたそうなのが明らかな感じだ。連れて来ればよかったかなと千秋は思った。
「それで課長さんはどうなったんてす」
「群春の支社長とうちの課長は同じ大学出身で、同じサークルの先輩後輩の間柄なんです。それでコンペに便宜をはかってくれと打診があり、御礼として50万もらったそうです」
(大金だな、そりゃ心がうごくわよね。一色君の言ってた社を越えた学閥ってやつかな)
「サークルの先輩後輩というだけで危ない橋をよく渡りましたね。芝原さんはどうです、大学の先輩に頼まれたらやりますか」
「僕は断るでしょうね、少なくともよほどの義理か恩がないとしません」
「課長さんにはあったのかな」
「さあ、そこまでは。大事なのは理由でなくてやったという結果ですから。ただ佐野さんのおかげで取り引きが成立しなかったので、傷が浅くてすみました。ありがとうございます」
どうやらそれが御礼を言いたい事のようだった。




