その3
千秋は自分の言いたいことがうまくまとめられず、それゆえ伝えられくてもやもやするが、だんどを面倒くさくなってしまい、話をきり上げる。
「もういいわよ、仕事に戻って。私も出かけるから」
そう言い捨てて企画3課の席に戻っていった。後に残された一色は、黙ってしばらくそこに残っていたが、スマホを取り出すとどこかにメールを送りはじめる。
一方、席に戻った千秋は自分の行動と言動に落ち込んでいた。
「ダメだ、ポンコツすぎる。気が抜けすぎだ」
アメリカにはジェーンがいる。エクセリオンの社員ではないが、大株主なので彼女寄りの社員や幹部がいる。
日本支社から来たというだけで、ジェーン派に目を付けられるかもしれない、ましてや部下だと知られたら、私の命を狙うような奴等なら、何をされるか分かったものではない。そう思うと一色とは距離をとった方が彼のためにいいと千秋は思う。
しかしそのような事を一色に話せるわけではなく、ましてや大きな仕事を終えた後の千秋は、それをうまく伝えられるよう頭がまわらなかった。
千秋は自分の現状を認めると、まずは目先の仕事である芝原とのランチに気持ちを切り替えた。
相手に電話を入れると、時間と場所を指定してくれたのでメモすると電話を切る。
(さて先日のお詫びがあるから手土産を持っていかなくては。そういう事に詳しい一色に尋ねたいが、今は気まずいな。他に詳しそうな知っている人というと……)
「はい、こちら護邸常務室です」
「あ、加納さん? 企画3課の佐野です」
千秋は得意先にお詫びの品を持っていきたいがと相談すると、
「それなら此方に手頃な菓子折りがあるから来てください、用意しておきますから」
「はぁ、ありがとうございます」
内線を切ると千秋は常務室に向かい、菓子折りを渡してもらう。
「ありがとうございます」
「いいのよぉ、このくらいお安いご用よぉ」
なんかやたらと機嫌が良いなと思いながらも、とりあえず頭を下げて待ち合わせ場所に向かうことにした。
丸の内駅で降りて2番出口から出ると、お城の方へ歩き最初の信号で右に曲がる。十字路を2つ越えたあたりの左手にあるイタリアンの店の前で、芝原は待っていた。
「佐野さん、こちらです」
昨夜はフレンチで今日はイタリアンか、少々贅沢かなと思えるのは、それなりに日本に馴染んだからかなと千秋は思った。
細長い造りの店内に入ると、わりと混んでいた。
芝原が予約しておいて良かったと言いながら案内された席まで来ると、千秋を先に座らせてから自分も席についた。




