魔女《ウィッチ》のケイ
すぐに飛び出そうとするノブに、待てをいい、連絡先を交換し、メモリーカードを借りた。
それが終わったら、ノブはふたたび飛び出していった。
千秋は時間を確認すると正午をまわっていた。急いで会社に戻ると、塚本がお弁当を食べていた。
「塚本さん、一色くんは?」
ふるふると首を振る塚本に、伝言メモを書いて渡す。
「塚本さん、私はこれから出掛けるわ。これを一色くんに渡しておいて。それからなるべく退社時間までに帰るつもりだけど、過ぎてたら塚本さんは帰っていいわ。だけど一色くんは待っているように伝えてね」
メモを手に、塚本はこくんと頷いた。
千秋は荷物を手に会社を出ていく。途中スマホで蛍に連絡するが留守電であった。時間的に当然かと千秋は思い、留守電に話しかける。
「ケイ、私、千秋。今すぐ会う用が出来たからそっちに電車で向かうわ。壱ノ宮に着いたらまた電話するね」
そう伝言すると、名古屋駅に駆け出した。JRのホームで待つと、20分ほどの時間があったので、立食いの店に入り、天ぷらきしめんを食べる。
食べ終わったと同時に快速電車が到着したので、それに乗りこんだ。
15分後、千秋は壱ノ宮駅の改札を出て、あらためて蛍に電話する。今度は出た。
「西側のロータリーにいるわよ」
駅西のロータリーに向かうと、カブライスポーツジムと書いてある軽のワンボックスが停まっていた。
千秋は、すぐに助手席に乗り、蛍はクルマを発進させる。
「サンキュ」
「午前中トレーナーやって、昼から事務仕事の予定だったけど、夜まで休みをとったわ」
「いいの」
「あんたがこんな時間に連絡するってことは、かなり切羽詰まっているんでしょ。少しくらいならいいわ」
「ごめん、助かるわ」
「で、どうしたの」
「着いてから話すわ、かなりややこしくなっているから。そっちはどう? なにか分かった」
「あー、こっちもややこしい事になっているから、着いてからね」
クルマは、南下してから左折して高架をくぐり抜け、しばらくいってからカブライスポーツジムに着く。
2人は蛍の部屋に入ると、すぐさま話し合いを始めた。
「まずは千秋から話して」
千秋は、今日の午前中にあった出来事、横領の濡れ衣、課長のスパイ行為、ノブとの出会い、キジマ達の集団暴行計画の話をした。




