その2
千秋が帰途につき電車に揺られている頃、護邸はホテルの一室に入っていった。
「またせたかい」
部屋には女がひとりいた。
空のワイングラスを右手でもてあそびながら、退屈そうに長ソファーに寝るように座っている。
その傍らのテーブルには、赤ワインのボトルが置いてあった。
「酔っているのか」
護邸の言葉を聴こえないように、むすっとした顔でいる。
女は立ち上がると、バーガンディーのロングチャイナドレスをひるがえし、護邸に近寄りもたれかかるように抱きつき、護邸の首に自分の腕を蔦のように絡め、胸に顔を埋める。
護邸はキスをしようとするが、女はしない。なにかを確かめるように護邸の身体中を触り匂う。
「なにもしてないよ、食事と会話だけだ」
「どうだか」
なにもない事にやっと納得すると、ようやくキスをした。護邸も女を抱きしめる。
唇を離すと護邸は女を抱き上げベッドに向かう。
「シャワーが先か」
「このままでいいわ」
女は護邸の首に絡めた腕に力を込め、ベッドに引きずり込むように倒れ込んだ。
(嫉妬深い女は激しいな)
事後、満足そうな顔をしている女である加納の髪を撫でながら護邸はそう思った。
「ねぇ、あの女と何を話したの」
「たいした話じゃない」
「うそ、だってミダスに連れていったんでしょ、何かあるに決まっているじゃない」
「それなら分かるだろ、言えない内容だって」
「なんなのあの女、なんでそんなに目をかけるのよ」
加納は起き上がると護邸に股がり、顔をして近づけ睨む。さて、どう誤魔化そうかと護邸は思案する。
「彼女はとある秘密を握っている、その内容は話せない。だが、肝心なのはそのお陰で、アメリカ本社がもめているという事なんだ」
「どういうこと」
「君は歴史は詳しいほうかい」
「なによ急に、あんまり得意じゃないわ、中学生程度くらいよ」
「日本は、貴族社会と武家社会を経て、今の民主化になった訳だが、その民主化になるまで、政治組織が4つ失敗している」
「そうなの」
加納は興味無さそうに返事をする。
「失敗の原因はなんだと思う」
「トップが無能だからでしょ」
「はは、辛辣だな。まあそれだけじゃない、トップが政治闘争に夢中になり、本来の仕事を疎かにしたからだ」
「ふうん、それがどうしたの」
「だから跳ねっ返りの下の者が、楯突く。つまり下剋上というのが起きやすくなるんだ」




